発芽玄米の自作

「地味めしダイエット」という本がある。この文体が嫌いな人にはとうてい受け入れられない本だと思うが(amazonの書評はかなりメタメタに書いてある)、根本的なアイディアがなかなか面白い。つまり、この本の根底に流れているテーマは「お前らは外で好き放題栄養のあるものを食ってるんだから、家では地味に飯と梅干しでも食べてろ。飢え死にはしない。」というようなことである。地味めしダイエット (知恵の森文庫)

逆に言うと、外食で栄養が偏っているから、というようなことで、たまの自宅での食事でフライトとかステーキとかガツガツ食うな、ということになる。そのなかで、「これは食って良し」という指定になっているのが発芽玄米だ。それも、ご飯に玄米を混ぜる、とかではなくて、発芽玄米だけを食え、という、極右マクロバイオティックである。

なんで、こういうことを書くかというと、友人が体重増加に悩んでいるらしいという情報が入ったためだ。筋トレ、ジョギング、ヨガ、怪しいDVD、ならまだしも、トランポリンで跳ね始めたということなので、そこまで追い詰められているのであれば、なんらかの方策を考えなければなるまい。ということで、今日は発芽玄米の作り方。

■その1
まず、楽天で無農薬有機玄米を買います。まぁ、楽天じゃなくてもいいけど、楽だし、探せば結構手頃な値段で売っているので。農薬なんて気にしない、という人も居るかもしれないが、発芽玄米は文字通り玄米ごと炊いて食べるので、どれだけ意味があるかは知らないが無農薬にしとくべき。玄米が届いたら、最後の白米のご飯を炊いて別れを惜しみます。

■その2
では作成しましょう。炊いた発芽玄米は冷凍保存にも強いので、まとめ炊きがオススメ。炊飯器は最新式でフラグシップであれば、特に拘る必要はありません。なんか10万円ぐらいする炭素削りだし内釜とかだと最高ですね。俺は買わんが。まあ、鍋でも飯盒でも、なんでも米が炊けそうなデバイスを用意して下さい。まず、玄米を炊飯器の炊飯限界量まで入れ、水で軽く洗います。(研ぐ必要はない)そして、たっぷりの水を張ってゆるくラップし、そのまま1日放置します。(夏場は1日、冬場はもっとかかる場合もある。植物なので、気温次第)

■その3
1日ほったらかしておくと、甘い匂いがして、細かな気泡が上がってくるはずです。この甘い匂いが、なんとなく「腐ってるんじゃないのか?」という危惧を抱かせる匂いですが、発芽の際には匂いが出るものらしいので、気にしないようにします。米粒をよーく観察すると、胚のところが小さな角のように飛び出ているのが分かるはずです。これが、芽です。手でかき回してみて、7割ぐらい芽が出ているようであれば、OK。水を捨てて、良く洗います。(研ぐのではなく)

■その4
炊飯器にセットして、水は心持ち多め、炊飯器の米種に発芽玄米を指定し(なかったら買い換える、あきらめる、普通のモードで試してみる等々)普通に炊きあげます。

■その5
炊きあがった発芽玄米は、いつも食べているご飯の量よりも少なめによそります。食べてみるとわかりますが、発芽玄米100%のご飯は、きちんと噛まないと飲み込めないし、相当腹にたまります。残った分は、即ラップしてあら熱を取り、冷凍しましょう。この時の冷凍一人前は普通のご飯よりもやはり少なめが良いです。150gで普通のご飯一杯ぐらいの感覚、130g程度でも十分。ちなみに、サトウのご飯は一人前が200g入ってます。

■注意点
発芽玄米は明らかに合わない料理、というのがあります。炒飯なんかはもう、作る気がおきません。その代わり、ゆかりをかけたり、刻んだ大葉やゴマを混ぜ込んだりするとかなり合います。

発芽玄米の作り方には諸説あるのですが(もっと超面倒なやり方もある)、毎日続けるとなると面倒なやりかたは無理なので、試行錯誤の末にたどり着いた一番楽なやり方を掲載しました。芽は出てるし、まあ、これでもいいんじゃないかということで。

発芽させた状態で乾燥させた、発芽玄米が商品として売られていますが、えらい値段も高いし、自分でつくるのよりは新鮮さに劣りますから、自作してみることをオススメします。


人は所詮、口に入れたものだけで出来ている。だから、健康にしても、ダイエットにしても、美容にしても、何を食うか、に最も左右される。発芽玄米は文字通り、発芽する瞬間の植物を食べることになるので、炭水化物としての米だけではなくて、かなり色々な栄養をとれる。だから、食べていてあまり量を必要としない。おかずは漬け物だけ、というような地味めしでも、ちゃんとした食事になる。食べてみると、結構抵抗なく食べられてしまうと思うし、一度習慣になると、なんとなく普通のご飯だと落ち着かない感じになる。

んで、これが本当にダイエットになるのか?というとよく分からないが、口に入れるものを考えてみる、ということ、それも主食を変える、というのは、結構効果的な試みだと思う。

ちなみに、僕の場合、平日の昼夜がほぼ外食で週末は地味めし、という生活パターンだが、体重・体脂肪率は増えてない。(むしろ、なんとなく減ってる)

発酵食品の賞味期限

Photo: 泡盛 2007. Tokyo, Ricoh GR DIGITAL, GR LENS F2.4/28.

Photo: “泡盛” 2007. Tokyo, Ricoh GR DIGITAL, GR LENS F2.4/28.

「これ、カビてますよね。この香りは、カビですねぇ。」

一口の泡盛を飲み下したソムリエの顔は、引きつっているんだか、おもしろがっているのか、ちょっと微妙なところだった。プロが言うんだから、本当にカビなのかもしれない。イタリア料理店に泡盛を持ち込むのはどうかと思うが、まあ、面白いから良いか。


この泡盛、味が何だかおかしい。クセがある、という次元を超えた臭い。カビだという人も居る。古民家という人も居る。風呂の残り湯という人も居る。しかし、その何だかおかしい感じが気になって、4合ビンを買ってしまった。

泡盛の専門書に載っている蒸留所の写真を見ると、発酵槽の上に怪しげな竹の簾で覆いがされている。これか?これが臭いの原因か?まあ、とにかく忘れがたい味なのだ。いずれにしても。

この泡盛に対抗して店から出てきたのは、(「ピッタリのをお出しします」と自信ありげだった)賞味期限を危険なほどに無視して熟成させたチーズ。これはこれで、腐った野菜桶に頭を突っ込んだような香りと、過剰なまでのコク。

「発酵ものの賞味期限なんて、有ってないようなもんですからね」

という力強いコメント。そうね、熟成なのか腐敗なのかなんて、そんなのは思い一つね。

ちゃんとした揚げ物

Photo: 路地花壇 2008. Tokyo, Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX.

Photo: “路地花壇” 2008. Tokyo, Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX.

その店を見つけたとき、あまり期待はしていなかった。腹が減ったので、用事が済んでから街の裏手の方を歩いた。そうして、見つけた。

都心でよく見かける、フランチャイズの洋食店。僕のイメージでは、油っぽい揚げ物中心で、店を出てから少しもたれる感じ。値段は、普通ぐらい。なにせ土地勘もないし、それでも良いやと思った。何よりお腹が空いたし、ちょっとビールくらい飲みたい気分だったのだ。


店は空いていて、僕の他には先客が一人いるだけだった。平日の 4時という中途半端な時間なのだから、仕方がない。座ってから、ちょっと失敗したなと思う。うっかり、フライヤーの前に座ってしまった。でも、油の匂いがあまりしない。揚げ物を出す店なのに、カウンターはベタベタしていない。

メニューを眺める。僕は、なんというか今日は海老フライが食べたかった。そして、メンチカツもいいなと思った。もちろん、それを盛り合わせたメニューは有ったのだが、なんというかメンチカツと海老フライは一番高い組み合わせじゃないか。(1250円だけど)でも、こういうので変に妥協すると、後で自分でメンチカツを作る羽目になったりするので、素直に食べたいモノを頼むことにした。

ビール頼むと、キリンかアサヒかを聞かれる。アサヒはあまり飲めないので、聞いてもらえると助かる。450円だけど、柿の種も付いてきた。フロアーをやっているのが奥さんで、厨房が多分旦那さんなのだろう。息が合っている。備え付けの雑誌を手にとって横目で見ながら、店主の作業を見る。

メンチカツは挽肉を合わせた材料を手で丸めるところからつくっている。へぇ、と思って見ていると、海老もパン粉を付けるところからだ。なんか凄くちゃんとしている。よくよく見れば、厨房のステインレスは磨かれてぴかぴかしているし、作業台の上は綺麗に片付いている。海老とメンチを油の中に放り込むと、白髪の店主は、キリッと背筋を伸ばして、フライヤーの中を凝視している。これって、もしかして、きっと、うまいはず。ビールをゆっくり飲みながら、揚げ揚がるのを待つ。


だいぶ時間がたって、お待たせしました、と皿が置かれる。

メンチカツはとても大きく、しっかり揚げられている。海老フライはちゃんと真っ直ぐに伸びていて、千切りキャベツとタルタルソースが添えられている。高価な一品ではない、でも、綺麗だなと思う。僕はまだビールを飲んでいたから、店主は

「ご飯は今でいいですか?」

とちゃんと聞いてくれる。頷くと、ご飯と一緒に豚汁も出てきた。豚肉はあんまり入ってないけど、豚の出汁が感じられておいしい。

タルタルソースをからめて、海老にかじりつく。もちろん凄く上等の素材を吟味しました、というものじゃない。けれど、衣も良く付いてカラリと揚がっている。ビールを飲む、美味しい。メンチカツも、きっちり揚がって、ソースをダラダラかけて食べる。良く炊けたご飯に、ソースと牛脂の甘さがよく合う。いつもの倍ぐらいの時間をかけて、ゆっくり食べる。


カウンターの横に座っていた客が帰って、結局、僕だけになってしまった。手の空いた夫婦は、店の片隅に置かれた、小さなポータブルテレビを静かに観ている。お腹が空いて、それを満腹にしてもらうことの嬉しさとか、感謝みたいな気持ちをちょっと感じる。都心の裏通りの店で、こうやって夫婦できちんと毎日ご飯をつくっている二人が、とても偉いなと思った。