芋がらの汁物

Photo: “Okinawa dish.”

Photo: “Okinawa dish.” 2023. Okinawa, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

首里城の外周に沿った県道の道すがら、容易に見落としてしまう径の入り口に、店の看板が出ていた。用水路?にかかる小さな石橋を渡り、細く急なコンクリートの階段を上がり、民家の玄関が右手に突然現れる。同僚がドアを開けると、「いらっしゃい」と、店員ではなく、彼が小上がりから出迎えた。僕は4年だが、その同僚との間にはもう、20年の空白の時間が過ぎている。

店はもともと下北沢にあった。今、故郷の沖縄に帰り、小高い丘に沿うように建つ。くの字型の住宅のような建物は、一階部分が店になっている。いかにも民家のような作りで、居抜きかと思っていたが、相当に改装されているという。「ずっと見てたんだけど、いろいろあったんだよ」と彼は言う。

彼が、下北沢の店に行き始めたタイミングというのは、あるいは僕たちを連れて行ったのが最初なのかもしれない。それからやはり20年が過ぎている。


芋がらの汁物、酒粕で漬けられたぐるくん、そういう手間暇がかかったものを食べる。決まったレシピを機械のように正確になぞったものではない。その時の材料で、店主が経験と感性で作っているものだ。だから、例えばうりずんで出てくるような沖縄料理とは、また違った味がする。その人の、個性の味がする。

さて、会社を辞めて20年、沖縄でどうやって生活してきたのか。震災以来、定職には就いていないと言うが、心病むわけで無く、困窮するわけで無く、それなりにいろいろ有るとして、まずは健やかに過ごしている彼の秘密を探りに、期限が切れそうな特典航空券を引き換えて、同僚2人と連れだって冬の沖縄にやってきた。