つぼらや閉店と18年前の写真

Photo: "Osaka Shinsekai"

Photo: “Osaka Shinsekai” 2002. Osaka, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EBX

つぼらや閉店の報が、タイムラインに流れてきた。

くいだおれビル、つぼらや、かに道楽。大阪の風景を構成する超有名店、しかし誰が行っているのか。かに道楽はたまに行くね、静かで、美味しい。少し高い。

つぼらやは行ったことが無い。場所が、ちょっと行きにくい気がする。つぼらや、撮っていたはずだと思って探したら、覚えの無い夜景が出てきた。昭和みたいな雰囲気が出ているのは何故か。平成の写真だし、21世紀なのに。

鶴橋のオヤジ

Horumon

Photo: “Horumon” 2014. Osaka, Japan, Apple iPhone 5S.

大阪に来た時には、少し無理をしても、行きたい店がある。鶴橋の焼肉街からは外れた場所にある、もう40年以上やっている店だ。

カウンターに並んだロースター、造花と黒電話、阪神戦を流すテレビ。出てくるホルモンは安くてうまい。オヤジと息子の二人で、ずっと切り盛りしている。僕は人情肌の店主というのが苦手なのだが、ここのオヤジさんの威勢は好きだ。

半年ほど前、オヤジは少し元気が無くて、息子が店に立っていないことへの、常連客の質問にも言葉を濁したものだった。

だから、盛夏の折、久々の店に近づきながらも、オヤジ大丈夫かな、と少なからず心配だったのだ。

しかし、今日は入口近くのカウンターに腰掛けたオヤジは、戸が開くと嬉しそうに、よぉ、久しぶり!と迎えてくれた。


先客の居ないカウンターの奥では、だいぶ白髪の増えた息子が、いつものようにビビンバの支度をしていた。オヤジほど、愛想があるわけじゃないが、そんな空気も含めてのこの店だ。

息子は店に戻って来ていた。いいかげん肉の仕事は息子に任せたのかとおもったら、やっぱりオヤジが肉を切ってタレと和えている。息子が(とはいっても、僕よりもだいぶ上なわけだが)ビールを出してくれる。

切りたてのばら肉も、瑞々しいシンゾウ(ハツ)も、しみじみいい色をしている。


そんな店の仕事を見ながら、良かったなぁ、と思う。

オヤジはとても幸せそうで、最初にこの店の暖簾をくぐった十年前と同じように、さ、何にしよか、何からいくか。と声をかけてくる。いつもの掛け声だ。

新幹線の時間を気にしつつ、今日は良かったなぁ、と、本当に思った。

奈良で鹿にTシャツを喰われる

Wild buck

Photo: “Wild buck” 2011. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX.

“No reservation” は、ニューヨークのシェフが、世界各地を食べ歩く番組だ。今回は大阪。酔客に、鉄板の前で尖った鉄ぐしを使わせる、セルフのたこ焼き屋に、ホストのアメリカ人は驚いている。「もし客が怪我でもしたら、ニューヨークじゃ、訴訟ものだ!」ある文化で普通に許容される行為が、他の文化では驚くべき危険な行為に見られる事がある。

であれば、野生の鹿に観光客が食べ物を与える、しかも柵なし。観光客の中には子供も、そればかりか幼児もいる。そんな、奈良の光景は驚きだろう。たいていの牡鹿の角は落とされているが、なかにはそうでないのも居る。


僕も驚いた、犬じゃないんだし。大型犬なんかより、余程大きく、小さい馬並みの脚力がある動物を野生のまま街中に放っておくなど、世界中に例があるだろうか。さらに、そいつらにあげるための食べものを売っているという街が、世界のどこにあるというのだろう。ああ、インドの牛はそうかもしれないが。

鹿煎餅を買った段階から、ヤツらはこちらを見ていたに違いない。何も持っていないときは、プイッと遠くの方で群れているくせに、煎餅を手にしたとたんに、トコトコトコトコ寄ってくる。平日であまり観光客が居ないせいか、鹿煎餅の競争率は高い。煎餅を手にした観光客に、すぐに鹿どもが襲いかかる。手のあたりを、クイッと見つめて、一目散にやってくる。

まずは、前から頭でコンコンつついてくる。かと思えば、後ろからガブーッとTシャツを噛んで、引っ張ってくる。こっちよ、こっちよ、という感じ。煎餅を口のあたりにもっていくと、一種異様な情熱でパリパリ食べる。鹿煎餅って、いったい何が入ってるんだ??


うろうろしている鹿に、煎餅をあげる。これは、意外と、相当面白い事に気がつく。ヤツらは確かに野生で、きままに色んな所に居て、色んな所に移動している。その不確定さが、相当面白い。多勢に無勢で囲まれた時に、結構怖いのもまた、面白い。それでも、日本文化の中で育った「野生動物」らしく、そんなに凶悪には図々しくないのも、また面白い。

意外と素早い動きに、マニュアルフォーカスカメラはなかなか付いていかない。それでも、Tシャツを食われながら撮った表情は、やっぱり意外と、野生動物だね。