四万十川

Photo: 2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

Photo: 2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

四万十川は、長かった。四万十川の全長は、なんと 196km。高知県内を蛇行しながら、えんえんと流れる、一級河川なのだ。

高知市内の飲み屋で、「えーっ、あんたたち、四万十川っていったって、凄く長いんだよ。知ってるの?」と女将に言われ、僕たちは唖然とした。歩いて登るとか、そういうのではないのか、、。

翌日の夕暮れ時。僕たちは、四万十川の中流域を越え、支流の松葉川沿いに宿を求めた。全く、あきれるほどに静かな夕暮れ。たまたま飛び込みで入った 宿に荷物を置いて、ひとまず、僕たちは川に降りた。その日一日、必死に四万十川を遡り続けてきて、初めて、まともに対面した川は、皮肉にも、支流である松 葉川だった。


一言でいうと、松葉川はいい感じだった。綺麗な水と、川縁に揺れる葦、そして川を囲む湿った林。その向こうには、丁寧に手入れのされた、黄金色の田圃が広がっていた。

低気圧の余波だろうか、川を流れる水は冷たく、水量は多かった。上流の方を見ると、うっそうとした葦と、傾斜のきつい岩山が、僕の視界を遮ってい た。僕たちは、これよりももっと上流に向かっていかなければならないのだ。実際、僕たちのような素人が、どこまで先に進めるのだろうか?

四万十川の源流はいまだ遠い。

四万十へ

Photo: 2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

Photo: 2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

なんで四万十川に行こうと思ったのかは、よく覚えていない。しかし、JALのカウンターに立った時、他に行き先の当てがあったわけではなく、僕たちは高知行きの切符を買った。日本最後の清流と賞される四万十川は、四国は高知県にある。

切符売り場のちょっとした行列に並び、マイレージカードで搭乗者を登録し、クレジットカードで決済した。空港にさえ来てしまえば、旅に出るのは難し くない。僕は、飛行機はキライじゃない。乗るときの面倒くささが、いかにも旅行をするような気がして良いのだ。機体が一瞬停止し、エンジンが全開になる瞬 間がいい。さて、行きますか。そんな気分になる。

そういうわけで、8月の暑い日、僕と友達は、四万十川に向けて旅立った。僕は買ったばかりの一眼レフ一式を背負い、友達は文章を書くために、やはり 買ったばかりのノートPC を手にしていた。僕はモノクロやらリバーサルや、いろんなフィルムを持ってきていた。友達は、外付けの CD-ROM ドライブや Windows 2000 のインストールメディアまで持ってきていた。なんというか、本誌取材班みたいだ。


ここ数日、関東の天候はあまり良くない。一端、房総半島の突端まで進んだ飛行機は、90度ターンして、東京湾を右手に見ながら関西を目指す。空に上がって、20分程で、雲海の下に富士山が見えてきた。夏の雲をまとった山は、黒々とした表情。

オレンジジュースを飲みながら、富士山を何枚か撮る。ファインダーの中の露出計は、外界がものすごい量の光に照らされていることを示している。雲の上は、真夏の太陽の世界。

髭を剃りながら、僕はふと

シャリ、シャリ、シャリ、、。

髭を剃りながら、僕はふと、軽い絶望に襲われていた。安っぽい、シェービングローションの臭い、ざらついたタオルの感触。俺はこれから一生、毎日髭を剃りつづけなければならないのか?いったい、一生のうち、何時間をこの作業に費やすのだ?

髪をいじる時間を考えたら、そんなもんはない方が良い。そういって、スキンヘッドにしてしまったタレントもいたっけ。髭にだって同じ事が言える。いっそ、伸ばそうか。その方が、もっと大変らしいけどさ。

もちろん、人はたいていの煩雑さに慣れることができる。ひげ剃りを苦に、人生をあきらめる人はいない。でも、なんかめんどくさい。羊は、年にいっぺん、ひっつかまえられて、仰向けに転がされ、綺麗さっぱり刈り取られる。

ああいう方が、いいかも。