森のピクニックセット

Photo: “Forest picnic set.”

Photo: “Forest picnic set.” 2023. Hokkaido, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

朝、ミーティングとミーティングの合間に朝食を食べる時間はありそうだ。しかし、レストランで朝食は嫌だなと思う。出張先のホテル朝食を、僕はだいたい食べない。だいたいが決まった内容だし、それにしては朝の30分は費やす訳で、とても無駄に感じるからだ。気乗りがしないまま、ホテルの案内を眺めていると(最近気がついたのだが、マニュアルを読むべきなのと同じく、ホテルの案内はちゃんと読むべきなのだ)、ピクニックセットという文字が目にとまる。


朝食付プランのお客様は、「森のピクニックセット」を利用可能、との事。そう言えば、ホテルの入り口にパン屋が有った。まぁ、それも良いだろう。パンがいくつか貰える位かな、と思いながら開店直後で他に客も居ないパン屋に入った。

「あちらのケースから、3つお選びください」という、まぁ予想通りの事を言われて、パンを選ぶ。朝はなんとなく、甘いものを選んでしまう。と、その間に店の人が、なにやら大きなバッグを用意している。お湯を魔法瓶に移し、コーヒーミルが用意され、その他いろいろなものが詰め込まれていく。

これは?つまり、ものの例えではなくて、本当にピクニックセットという事?そして、それは本当のピクニックのためのセットであり、僕はバッグを渡される。

「森はどこにあるんですか?」
かもめ食堂のワンシーンのような質問をすると、地図をくれた。本当に、森に行くためのセットなのだ。部屋に持って帰ってさっと食べるとか、そういうコンセプトのものではない。時計を見る、次の予定までの時間を考える、多分問題無い。出発しよう。


大きなバックを肩にかけて、地図を見ながら緩い坂道を登っていく。群生する花の向こうに沼が見え、蜂の羽音が聞こえてくる。吹き抜ける風は涼しく、太陽は暑い。上がっていく気温に、有機物が分解される田舎の匂いが鼻腔に流れ込んでくる。途中、沼に面して大きなガラス窓を設えた東屋があったが、やっぱり外で食べようと考える。ピクニックセットなのだ。

途中で舗装が途切れた径を進み、小高い丘にたどり着いた。野外のテーブルに、セットを広げる。ここまで誰にも会わなかったし、周りに人の気配は全くない。バッグの中身は、予想以上に本格的で、コーヒーミルで豆を碾き、ドリップするための一式が入っている。選んだパンの他に、バナナと、スープにサラダも付いている。これは、凄いな。

ガリガリとミルを回しながら、辺りを見回す。とにかく大陽が暑い。
草の匂いが、満ちている、蜂が飛び回っている。