その店は、なかなか入りにくい

Photo: “Set meal of grilled yellowtail.”

Photo: “Set meal of grilled yellowtail.” 2017. Tokyo, Apple iPhone 6S.

その店は、一見するとなかなか入りにくい。実は、その近くを歩きながら、何年も気が付かなかった。住居と一緒になった、割烹のような店構え。昼時、店の前に掲げられる品書きは、少し値が張る。

「いらっしゃいませ。」

和食の世界では名の知れた名店だが、二代目の店主の物腰は柔らかく、少しも威張ったところがない。

「今日は、焼き魚は何ですか?」
と聞くと、
「竹が鮭、松が太刀魚です」
と答えた。ちょっと迷うが、太刀魚にした。

焼き台にはまだ炭は入っていない。ガス台でカンカンに暖められた炭が置かれて、大ぶりの太刀魚が串に打たれて焼き始められた。12時をちょっと回った頃だが、連休の谷間で今日は人が少ない。先客は3人1組だけ。皆、名物のどんぶりを食べているようだ。


ほうじ茶を啜りながら、たっぷり10分ほど待つと、魚が串から外され熱い飯がよそられる。出てくる定食は、見た目が凄く豪華とか、そういう事は無い。供される小鉢も、汁も、もう渋すぎてかの小説家の「昔の味」に出てきても不思議では無い。

小鉢のたけのこの煮物、えぐみの少し残った感じ。蕪の漬物の、少しひねた感じ。汁は粗から出た出汁がひどくうまい。太刀魚に添えられた蕗味噌は、普通に考えたら塩辛そうだが、ぎりぎりで塩が収まっている。

焼きあがった太刀魚は、鱧のようにふっくらとしている。腹身と背中の味の違いを噛みしめる。そうして、艶っとしたご飯を頬張る。


普段はそんなことは思わないが、この店ばかりは、美味しさが分からないなら食べなくていいよ、と思ってしまう。あるいは、そういう美味しさが分からなかったから、何年も自分の視界に入らなかったのかもしれない。

マルゲリータはビール用な味付け

Photo: “Beer bar in Malaysia.”

Photo: “Beer bar in Malaysia.” 2014. Kuala Lumpur, Malaysia, Apple iPhone 5S.

何回も来ると、都市部でやる事なんて限られて来る。KLは若い、成長中の都市だから、どんどん東京とかに似て来るし、街の臭いもどんどんマイルドになってくる。

四年前に初めて目にして、びくびくしながら行ったイスラム寺院も、今はなんか見慣れてしまった。寺院の周りの通りを歩いてるのはビジネスマンか、観光客だけと言われると、納得してしまう。(地元の住民が行くところでは無いらしい)

とにかく観光的な見所の無い街で、いいレストランとか飲み屋なんかが、唯一の楽しみ。


東南アジアでビールと言えば、氷を入れて冷やしていたのも今は昔。マレーシアのビアバーの品揃えにはビックリする。この店でも、ビールはオンタップで8種類くらいあるし、ニュージーランドのIPAもある。缶とはいえ「水曜日の猫」さえ有ったのには驚いた。

つまみで取ったマルゲリータは、ちゃんとビール用な味付け。マッシュルームのフライも、(南国育ちなのか、茸のサイズが巨大だが)良い味。

上海地下鉄で寝る人

Photo: "Downtown."

Photo: “Downtown.” 2011. Shanghai, China, Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.

友人が上海地下鉄の席で寝こけている。まさに、日本のオッサン、通勤サラリーマン。上海の電車で寝れるって、スゲーなと思う。

ただ、逆に考えれば色んなフィールドで自分のペースというものを守れる、という事かもしれない。単に変われない、というだけなのかもしれないが。