pomera DM250 US配列サポート、21世紀に登場した最後のワープロ

Photo: “pomera DM250.”

Photo: “pomera DM250.” 2022. Tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

さて、念願のpomeraを買ってみた。今まで何度か買おうと思いつつ、キー配列がJIS固定ということで、踏み切れなかった。そして、今回DM250で、まさかのUS配列サポート。なるほど、US配列でATOKが使えるのなら、文句はない。半導体不足の折なので念のため、ヨドバシカメラへの予約で購入してみた。(発売後にWeb上の在庫を確認してみると、翌日出荷なので比較的潤沢にあるようだ)開封の印象とかは省略する。ただ、外箱は厚紙を複雑に折り込んだもので、解体が簡単でリサイクルの効率が良さそう。


文章を書くツールと、仕上げるツールは少し違うと思っていて、僕はpomeraで最後まで仕上げるというのは想定していない。そういう用途なら、MacなりPCなりに転送してより広い画面とポインティングデバイスを使った方が良いだろう。最初に、アイディアとかを一気にメモする用途に向くと思っている。個人的には、膝の上に載せて打って熱くならないデバイスが欲しかった。

充電が終わったpomeraを開けてみる。起動は凄く速い。最近のデバイスにありがちな、まずはネットに繋いでアカウントを登録して、というような事は無い。いきなり、文章を書き始める体勢になっている。使い方は、もう大体わかる。それに、オンラインヘルプでショートカットキーなどは確認可能。あらゆる面で、凄くこなれている。機能は書く事に対して厳選されていて、メニュー階層は浅い。

暫く使っての、新鮮な懐かしさ感は何だろう。そうか、このデバイスにはポインティングデバイスが、カーソルキーしか無いのだ。これは、今の時代に凄い。ナビゲーションに使えるのは、カーソルキーと、リターンとタブとESCだけだ。キャラクターベースのデータを生み出すためだけの機械なのだから、アナログポインティングデバイスは不要。潔い。


このレビュー記事を見る人は、本当に文章入力に興味の有る、ある程度の年齢の人が大半だと思う。だから、ごく個人的な印象を述べるとすると、これは、昔のワープロを21世紀の超絶技術で進化させたやつだ。Webも何も使えないので、文章を書くしかない。Wifiも使えるけれど、文章の転送にしか使えない。カラー液晶のくせに、白黒のフリをしている。(スクロールさせても、もちろん、液晶に残像が残ったりはしない)行番号を表示させて、罫線をつけて、フォントを明朝にすると、それはワープロっぽい見た目になる。そして、このpomeraのフォントは何なのだろう?と思っても、調べられない。Webが使えないから。それが、割と斬新。

試みに、営々と積み上げてきたATOKのユーザー辞書をインポートしてみた。SDカード経由で、ATOKのテキスト形式の辞書エクスポートデータをそのまま読み込める。7881件のデータは3分もしないで読み込まれた。リストを見ると、大学の卒論で使ったと思われる用語も入っていた。IMの辞書というのは、自分の外部記憶の一つなのだ。なお、ATOKは最新のカスタマイズ版なので、こんな辞書のインポートをしなくても、違和感なく使うことができる。本家ATOKはサブスクに移行してしまっているので、買い切りで使えるATOKは今や貴重だ。iOSやAndroidに移植されてる、あの酷いATOKとは違う、PCやMac版の方のATOKの亜種だと思うので、そこは安心して大丈夫だ。


人によって、キーバインドなどはカスタマイズして使うのが原則になるだろうが、US配列設定の他にも、気の利いたカスタム項目があって気に入った。CapsとCtlの入れ替えまで標準で設定できるようになっている。僕はこの入れ替えをいろんな環境で使って居るので、予想外に助かった。

キーボードはもちろん標準的なノートPCよりも二回りほど小さいので、使う指は少し変えた方が快適な気はする。僕の場合は、特に「=(-,ほ)」と「~(^へ)」を頻繁に打ち間違える。設定でUS配列に変えたとしても、物理キーはUS配列に比べてキー1つ右に余計なので、指が誤反応するのだろう。

ただ、実際に使って見ると、JIS配列モードでもそんなに実用性に変わりが無いような気はする。というのも、このプラットフォーム上でコマンドを打ったり、英文を使ったりするわけではないので、QWRTYの最上段をシフトを押しながら使う機会というのが、ほとんど無いのだ。PC的な用途ではJISとUS配列では例えば、@の位置が違うのが、結構際立っているのだが、日本語を使っている限りはそのキャラクターを使うことはほぼ無い。


もちろん、全体の動作は極めて速い。再起動ができるのだけれど、実測で9秒台で元の文章の編集状態に復帰する。この時代のCPUを、こんな単機能で使っているのだから速いはずだ。とはいえ、深く考えずにRaspberry Piのセットアップとかをすると、再起動にはそこそこ時間がかかるから、ハードもソフトも、いろいろきちんと考えて作られているのだろう。それにしても、このCPUは何だろう?ARM系だとは思うが。と思ってもWebで調べられない。新鮮(2回目)

自分の好みの設定に詰めていく上で感じるのは、非常に注意深く機能の取捨選択が行われている点。なんでもかんでもユーザーの声に応えることが「ユーザーフレンドリー」とされる今の世の中では、数多く寄せられるであろう様々な意見から「採用しない」決定をするのは、大変な労力を要すると思う。しかし、設計思想は堅持され、気が散るような付加機能が一切実装されていない、電卓さえ無い。常時画面に出ているのは、ファイル名、入力文字数、入力モード、電池残量、時計。何かが気になっても、よそ見ができない、そこが決定的。逃げ場が無い、自分の中にあるものをとにかくキーボードに書き付けていくしか出来る事がない。これはまさに、現代の石版、ブラックモノリスだ。搭載されたギガバイト級のストレージを、人が打ち込むテキストデータだけで埋め尽くすのは、至難の業だろう。容量が尽きるその日まで、事実上無限にデータを入れ続けることができるのだ。


ぜんぜんやる気にならないWeb原稿の下書きを、pomeraでなんとかうーんと書いて、骨子も何もぐちゃぐちゃだが、とにかくは着手して、そのボンヤリしたデータをPCに転送して、事実確認をしながらカッチリした形に仕上げて、なんとか担当に期日前に送りつける。pomeraを側らに置くことで、デジタルで原稿を書く物理的・時間的なハードルを限りなく下げられる。つまりはこれが、文房具を目指して作られている、そういう設計思想のものだからだろう。万人に勧めないが、必要な人には、相当に必要、そういうデバイス。

ルームサービスのハンバーガー

Photo: “I ordered Hamburger.”

Photo: “I ordered Hamburger.” 2022. Thailand, Apple iPhone XS max.

パンデミックで海外に出られなくなって2年以上。ANAで訪れた数年ぶりのタイ、バンコクは、まぁ少し静かになったなぐらいで、相変わらずの蒸し暑い、ごみごみした都市だった。この街で、今さら試したい新しいこと、というのは取り立ててない。

ナナプラザとか、そういう場所に行く趣味は無いし、ブランド品を漁りたくもない。いずれにしても、出張でしかこの街に来たことは無いのだ。


蒸し蒸しした、夜の街に出る気もちょっと無くて、ルームサービスを取ることにする。せっかくの海外で、ホテルの食事なんて、と昔は思ったけれど、新しさの選択肢というのは確かに年月を経ると減ってくるし、快適さを取りたい気分は増えてくる。ちなみに円安とは言っても、タイの食事というのはやはり割安感があって、ルームサービスの値段で、日本の普通の外食メニューと同じくらいだ。グラスフェッドのビーフハンバーガーとコーラを頼むことにする。


大きなトレイに皿を載せてやって来たスタッフは、存外さっと居なくなってしまって、そう言えばチップを渡すのを忘れた。

バッサバサのチキンとベーコンで、あまり味が無い。サンドイッチに塩を振りかけるって、やったことはないが。付け合わせのポテトは冷食自販機で出てきそうな味だが、まぁ、ケチャップを付ければ食べられるんじゃないだろうか。缶のコーラを、たっぷり氷が入ったタンブラーに注ぐ。夜景を眺めながら、モソモソと食べる。べつに美味くないが、楽で良い。

っていうか、僕が頼んだのはハンバーガーじゃ無かったんだっけ。。
ハンバーガーはサンドイッチ問題があるのだろうか?いや、ハンバーガーと頼んでサンドイッチは違うだろ)

転がる吸い殻

Photo: “Tokyo Station at night.”

Photo: “Tokyo Station at night.” 2022. Tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

シミュレーション仮説、の本がKindleのセールになっていて、相当面白く読んだ。テクニウムを読んで、AIがシンギュラリティーというのはちょっと腑に落ちなかったが、メタバースがシンギュラリティーは、良い線行ってる感じがするのだ。


歯医者の待ち合いの窓から、道路が見える。初夏の薄曇りを通した日差しに、アスファルトが白く焼けている。そこに吸い殻が1本、転がっている。

これが、シミュレーションのリアルか、と思う。良く作り込まれた、テクスチャか。見るうちに、吸い殻は風に吹かれて3、4回転する。更に、向こうから自転車が来て、前輪がちょうど吸い殻を轢いていく。見ている部分だけをレンダリングしているにしても、複雑。


改めて観察してみると、吸い殻みたいなオブジェクトでも、シミュレーション仮説に挑戦してくるような、複雑極まりない動きをしている。

その後の歯医者の治療は、麻酔をかけられて、変にリアルを失った感覚だった。

 

参考文献:われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」、リズワン・バーク (著), 竹内薫 (監修), 二木夢子 (翻訳)、徳間書店 2021
参考文献:テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?、ケヴィン・ケリー, 服部 桂、みすず書房 2014