メリーゴーラウンドと冬の女神

Photo: 冬の女神 2000. Tokyo, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film,

Photo: “冬の女神” 2000. Tokyo, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film,

大人になってから、メリーゴーラウンドに乗るのは、結構恥ずかしい。その古めかしい機械にまたがって、いまさらどんな夢を見ればよいというのだろう。

でも、それが動き始めて、景色が回り、俯いたまま立ち尽くしていた白馬達が走り始めると、なんだか楽しくなってくる。


そう、昔のこと。エッフェル塔の袂に、小さな遊園地があった。いくつかの綿菓子を売る屋台、いくつかの小さな乗り物。少し寂しい、素敵な遊園地。その真ん中に、メリーゴーラウンドがあった。

セーヌ川から吹いてくる冷たい冬の夜風の中に、きらきらと浮かび上がったメリーゴーラウンド。

暫く眺めていると、動き出した。

フランス人形のような子供達にまじって、サングラス姿の大人が1人乗っていた。黒服の、マフィアにしか見えないスキンヘッドの大男が、木馬にまたがってニコニコしている。彼は、くるくると、光の中を駆けていった。


注:さすがに、普通の人は、男一人では乗ったりしない方が良いかもしれない。

アドリア海

Photo: 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Agfa, FS

Photo: 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Agfa, FS

映画ハンニバルは、確かに酷い代物だったが、ベネツィアの美しさは良く撮れていた。

ブレード・ランナーで有名な、監督のリドリー・スコットは、闇を撮る監督である。ハンニバルのスクリーンの中で、街の其処此処に潜む闇は、南欧の光と美しく調和していた。中世の暗さと、華やかさを併せ持つ、それが、この街の空気である。


入り組んだ水路を、アドリア海に向かって抜ける。

陰鬱な壁の向こうに鮮烈な青空。このあたりの景色は、ルネッサンスの時代から、さほど変わってはいまい。建築は、太古の昔からそこにある岩壁のように聳える。ベネツィアの闇には、死と恐怖と、そして妖しい魅力が潜んでいる。


ベネツィアは海の街だ。僕は、いつか、海のある街に住みたいと思っている。
未だ住んだことは、ないのだけれど。

注1:リドリー・スコットは、ブレード・ランナーや、ブラック・レインの監督。撮る画の綺麗さで、群を抜く。トップガンの監督トニー・スコットの兄。最近、いまいち、、。
注2:映画ハンニバルのあまりに、あまりなラストに愕然とした人も多いと思う。なんじゃ、ありゃ。あと、スターリングやクレンドラーのキャスティングも最後まで馴染めなかった。原作は、とっても面白いので、お勧めです。
注3:1995年撮影。6年たって、やっとコメントを付けられました。

チューブ

Photo: 1995. London, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. London, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

地下鉄駅。びびっているので、手ぶれがひどい。だって、なんとなく怖い雰囲気なのだ。

トンネルが造られた時代が古いだけに、口径が小さい。ロンドンの地下鉄が、「チューブ」と呼ばれる所以か。地下鉄の屋根やドアも、トンネルに合わせて丸っこくカーブしている。

その狭苦しさと、強引なドアの開閉のおかげで、日本の感覚で駆け込み乗車すると、確実にドアに挟まる。僕も1回挟まった。挟まりながら乗り込んで、周囲を見回すと、乗客が恐怖に強張った顔をして僕を見ていた。どうも、ロンドンの地下鉄で駆け込み乗車をすることは、もの凄く危ないことらしい。