世界を知る、まくら

Photo: “Tight sheet.”

Photo: “Tight sheet.” 2015. international waters, Apple iPhone 5S.

ネックピローというのがある。座ったまま寝なければいけないような時、飛行機とか、そういうもので使うアレだ。

膨らませるタイプもあるし、ビーズやクッション材が詰まっているのもある。切り込みのあるドーナツみたいな形をしていて、たまに、バックパックやスーツケースにぶら下げている人が居る。

うちにも、1つある。仮に”しま”としておこう。シマシマだからだ。


まだ、海外出張があった頃、特に冬場の飛行機がつらくて仕方なかった。僕は数年来、冬場の首の痛みに悩まされてきた。普段の生活でもつらいし、まして、いかに断熱されているとはいっても、零下数十度の中を飛ぶ飛行機の、隔壁からしんしんと伝わってくる冷気は、恐怖ですらあった。降機する頃には首はガチガチ。なんとか楽に過ごす方法は無いのか。

だから、成田のユニクロかどこかで、飛行機に乗る前に衝動的に買ったのだ。以来、バックパックにぶら下げて、いろんな国に行った。首の痛みが劇的に良くなるか、というとそうではなかった気がするが、安心感はだいぶ違ったのだ。


今は、カブトムシのお陰で、冬場に悩まされていた首の痛みは無くなった。旅に、”しま”を連れて行く必要も無くなった。だから、”しま”は引退した。

幸い、荷物としてロストされる事も無く、破けることも無く、無事に冒険の日々を終えた。

中身はビーズだから、全然へたらないで、今は、他のクッションに混じって余生を送っている。他のヤツらがせいぜい工場と、倉庫と、家のベランダぐらいしか知らないのに、”しま”だけは、世界を知っているのだ。