すり減るのが恐い

Photo: 2001. Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Knodak Ektachrome DYNA 200, Dimage Scan Elite(Digital ICE)

Photo: 2001. Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Knodak Ektachrome DYNA 200, Dimage Scan Elite(Digital ICE)

「感性がすり減るのが恐い。自分が、何も感じなくなっていくことが恐い、、。」

その日、僕はいくらか酔っていて、安居酒屋のラミネートされたメニューを眺めながら、そんなことを言っていた。


このページに、何度も書いていることだけれど、人は慣れる。どんな辛いことも、どんな楽しいことも、どんな新しいことも、やがて慣れる。仕事も、生活も、だんだん慣れてくる。いろんな事は殻に覆われて、辛くもなく、楽しくもなく、なんでもなくなってしまう。

あるいは、人には、何かが出来る季節、みたいなものがある。少し前まで、そういう季節が失われるなんてことは、想像することもできなかった。でも今は、自分にひらめきみたいなものが失われ、日常に埋没して、なんとなく生きていってしまうのが、恐い。

信号機が、パッと赤に変わるように。あるいは蛇口から最後の一滴が落ちてしまうように。ある日、全ては、手の届かない記憶になってしまうんじゃないか。


いろんな痛い思いをするのは嫌だけど、何も感じないのは、もっと嫌だ。僕には変わりたい部分もたくさんあるけれど、変わりたくない部分もある。時間が、無情にそれを奪ってしまうことが恐い。

昔は、大人になるまでの年月を数えていたけれど、今は、残された人生の年月を数えている。そんな転換があって、こんなことを考えるのかもしれない。


いずれにしても、その居酒屋で蛸山葵をつつきながら口をついて出た不安は、未だに僕をとらえている。あるいは、その不安すら、失う日が来るのかもしれないのだが。

注:ラミネート【laminate】合板にすること。また、プラスチック‐フィルム・アルミ箔・紙などを重ねて貼り合せること。「―‐チューブ」[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

FM COCOLO

Photo: 2001. Suma, Kobe, Japan, Contax T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35,Fuji TREBI 400

Photo: 2001. Suma, Kobe, Japan, Contax T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35,Fuji TREBI 400

茶碗夫婦の家では、あまりテレビは見ないらしい。彼らの家のリビング・ダイニングにはテレビがない。

その代わり、窓際に Sony の小さなラジオが置いてある。僕は、こういう生活に、少なからずカッコ良さを感じてしまう。開けはなった窓の方から、静かにオールディーズが流れている。


神戸では、FM COCOLO がずっとかかっていた。関東の方で言えば、InterFM に近い。今より、もっとまともな多国籍放送だった頃の InterFM だ。

海岸には boston とか、70年代のあっけらかんとした音楽がよく似合った。More Than A Feeling、良い曲だ。そういえば、高校の文化祭で準備をしながら、BGM 代わりにかけてたよな、boston。


注:珍しく、わざわざ構図をつくって撮ってみたのですが、なんか滑稽な絵になりますね。妙なリアリティーの欠落というか。