Photo: “Biryani” 2009. Tokyo, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.
スパイスと羊脂と化石燃料の混ざった臭い。このあいだ、北京の屋台村で嗅いだのと同じ臭い。そうして、店内ではザワザワと色んな国の人々が、食べ物を口に運んでいる。カトラリーを使う人が多いが、手で食べている人も結構居る。ここはリーズナブルでうまい、喧噪と匂いで入った瞬間にそう分かる。
僕はその週、とにかく、ビリヤニが気になっていた。twitter のつぶやきで、心にひっかかった単語ビリヤニ。
ビリヤニはインド料理で、ごく簡単に言ってしまえばカレーとサフランライスの炊き込みご飯なのだが、仕込みがとてもめんどくさいもので(カレーつくって、サフランライスつくって、それからやっと炊き合わせる)、日本のインド料理店ではあまりメニューに載らないのだ。つぶやき主に訊いてみても、ちゃんとしたビリヤニを出す店は限られてしまっているようだ。
どこかで食べてみたいものだ、と思いつつ、友人と晩ご飯へ。待ち合わせ場所がアウェイな所なので、お店は任せた。お勧めがあると、連れて行かれたの は、ヨガの先生に教わったというインド料理店。店内は巷に蔓延る「下品なチェーン系適当インドかパキスタンよく分からない料理屋」とは違う、ブルーの趣味 の良い内装。だが、えらく混み合っていて、匂いと喧噪は強烈だ。ひっきりなしに、客が出入りしている。ふと壁のお勧めメニューの張り紙を見ると、、 「Biryani」えーと、「びりやに?」
あるじゃん。
ここによく来る、という友人はビリヤニを頼んだことはなく、まあ、確かに知らなきゃ頼まないだろう。僕だって、ここ数日で知ったのだ。それに、この店のメニューには、別に詳細な説明が書いてあるわけではないのだから、馴染みが無い日本人にはなんの料理だか想像も付かない。
マサラドーサ、チーズクルチャなどを食べつつ(これらも初めて食べた)、ビールなどを飲んでいると、待望のビリヤニがやってきた。ビリヤニは、ちゃんとバナナの葉っぱの上に乗ってくる。この店のレギュラーメニューはマトンのビリヤニだった。ヨーグルトベースのドレッシングがかかったサラダ(友人はデザートだと言ったが、残念ながらサラダだ)が付いてくる。
ビリヤニの第一印象は、いささかしょぼい意見だが「混ぜなくて良いので、食べやすい」ってこと。カレーとご飯のバランスを気にしないで、良い感じの 味の濃度でモリモリ食える。そして、食べていて、なんとも懐かしい気分になる。ここのビリヤニは、オリジナルがそうであるように正しく超長粒米で作られていて、ご飯の食感は炒飯と混ぜご飯の真ん中のような感じ。スパイスは利いているが、日本人にとっても、安心する味だ。
よく見たら、左隣のテーブルのインド系なメンズ 3名は、全員ビリヤニ単品のみ。右隣も締めはビリヤニ。なんだろう、お袋の味、五目おこわでも食べる感じか。ビリヤニは婚礼などのお祝い料理で作る、とインド料理のサイトには書いてあった。だから、気取った感じの味だと思っていたが、なんか違うかもしれない。むしろ、糞暑いインドで、独身のメンズが日本に於けるラーメン屋の炒飯のようにモリモリ食うのが、イメージに合うような気さえする。
食べたいなぁと、思っていたら、思わずビリヤニに出会えた。そういう日。