ひょっとして、ここってシリコンバレー?

管理者は、地理が全く持って苦手であって、サンタクララという場所が、シリコンバレーなのだということに気が付いたのは、着陸10分前だった。
「なんか谷みたいになってるけど、ひょっとして、ここってシリコンバレー?」

国際空港というよりは、うらぶれた公民館のような入国管理事務所を通ると、そこはシリコンバレーだった。


ここに多分、観光客というのはいないのであって、世界中何処にでもいるはずのバックパッカーさえもいない。街には、Cisco, Compaq, Nortel, Dell, Apple といった業界の有名どころから、bea, Novell, Netgear 等のちょっと通な感じの会社まで、あらゆる「ハイテク産業」のビルがあふれている。ホテルの窓から、昔自分が担当していた(させられていた、いや、はめられた)製品の会社が見えたりするのは、なかなか渋い。もちろん、「ここって、ついこの間まで、xxxの本社だったよね」という感じで、消えてしまう会社も少なくない。

ある種、アメリカのステレオタイプである、ボロボロの車は少なくて、Porsche, BMW, Mercedes, Lexus, Acura, Volvo の最新モデルが、駐車場を埋めている。つまり、斜陽と言われつつも、シリコンバレーには、まだ金がある。だから、別にミーティングのゲストにマジック・ジョンソンが来ていたりしても不思議ではない。


マジック・ジョンソンは、元NBAの選手ではあるが、現在は映画館チェーン、珈琲屋のフランチャイズ(羊ページでさんざん言ってるスターバックスだが)、レストランチェーン、スポーツクラブチェーンを経営するオーナー社長だ。
「初めて、自分のオフィス、自分のデスクに座り、足を投げ出して、秘書にコーヒーとドーナッツを頼んだ。それが、自分の夢だった。」

それは、もちろんある種の誇張だろうが、彼の夢は、「ビジネスマンになること」だったのだそうだ。NBAという輝かしい経歴を経て、ついに彼は「ビジネスマン」になった。そんな元NBAのスーパースターの言葉を、IT業界の「ビジネスマン」達は、どんな思いで聴いたのだろうか。少なくとも、僕はコーヒーが嫌いだし、朝からドーナッツを食べたいとも思わないけれども。


成功は、道の両側にある。例えば、名もない学生が興した企業が、全米を代表する企業に成長し、無数のオフィスを並べている。HPSunも、みんなそうして大きくなった。

もちろん、成功するということは、誰かをうち負かすことでもあるし、足蹴にすることでもある。それはネガティブでシャイな考え方だという気分もある。そうは言っても、サンノゼのダウンタウンを少し歩いてみると、そこにはやっぱりホームレスがいるし、雑然とした小さな家々が並ぶ、うらぶれた通りが続いているのだ。

空調の効きまくったホテルで、次世代インターネットに関する話題が飛び交っている世界と、そこから数キロ先の路上で、なにやらアイスクリームのようなものを売っている老人の世界とは、やっぱりとんでもなく違う。良い意味も、悪い意味もなく、事実として、シリコンバレーは、今の時代の成功者のための街だ。


さて、ホテルの前に、路面電車みたいなものが走っている。一日、乗り放題で3ドルなので、サンノゼの太陽がギラギラする中、ぶらり路面電車の旅をしてみた。写真も撮ったので、それはまた帰国してからということで、、。

注1:地理が苦手というよりも、地理を気にしないという方が正解。
注2:本来はビジネスパーソンでしょうが、日本語としてはあまり定着していないので、ビジネスマンという表記にしています。

台湾の人形劇団

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

指人形が、人形師の手から飛んだ。少女の視線が釘付けになる。艶やかな衣装を纏った人形達が、名人の手の上で、踊り、歌い、そして空を、飛んだ。

コンマ数秒後、人形は操り手の指に、寸分の狂いもなく戻る。宙を舞う人形に息を飲んだ子供たちから、歓声が上がった。


ここ台湾に於いて、人形劇の芸術としての地位は高い。人形劇専門のテーマパークのような場所があり、そこには大人から子供まで、幅広い層のお客が訪 れる。写真の中で人形を操っているのは、その人形劇公園(?博物館ではない、死んだ文化ではないからだ)の主宰を勤め、そして台湾の人形師の最高峰にある 鍾任壁氏。彼は、かつての国民党総統の前でも演じたという。


鍾さんの演じる人形劇の素晴らしさは、こういったものに全く興味の無いはずの、僕を感動させた。それは、人形師の卓越した技と表現力だけによるので はない。見学に来た子供たちの前で、心から楽しそうに演じる人形師。そして、時には息を飲んだり、歓声を上げたりして喜ぶ子供達。みんな真剣で、そして楽 しそうだった。そして、僕も楽しかった。

そんなことに、心を動かされたのだった。

そういう恥ずかしい態度は、きっぱりやめていただきたい

名古屋からの出張の帰り、間違って「こだま」の指定席を買ってしまった。

別に、変更できないというわけでもないが、こんな機会でもなければ各駅停車の新幹線に乗ることなどないだろうから、そのまま「こだま」で行くことにした。

(今回の「今日の一言」はあんまり意味無いです。最近、こういうのが多いけど、、)


「こだま」がホームに入ってくる直前、少しの時間をみつけて、立ち食いのきし麺をサッとすする。店内は、ぎりぎりの時間を使って、最後に名古屋名物を腹におさめようというビジネスマンで混みあっている。僕が食べていた、牛肉入りのうどんをみて、今入ってきたオヤジもつられて肉を頼む。肉うどんは一番高い、600円。

ホームの弁当屋で、味噌カツ弁当でも買っておこうかと思ったが、「幕の内しかない」とのつれない返事。もう、午後 8時になろうとしている時間だから、しかたない。買わなかったら確実に車内でやることが無くなってしまうので、1つ買う。でも、買った直後に、丁度売店への弁当の配達とすれ違った。惜しい。


名古屋から新横浜まで、図らずも「世界の車窓から」状態である。車内は、当たり前だがガラガラ。窓際に一人ずつ人がいるぐらいで、とてもゆったりしている。「こだま」を使うと、名古屋から新横浜まで2時間半かかる。行きは「のぞみ」で1時間半かからずに来たことと比べると、全く違う旅。

たっぷり長いこの時間をどうしたものか。ホテルから持ってきた新聞を読むとも無く読み、幕の内弁当を食べながら、やたらに時間をかけてビールを飲んだ。僕は、別にビールが好きということでもないのだが、最近は「ビールを飲むという状況」がなんとなく好きで、気に入っている。ビールを飲むと言うのは、他の酒を飲むときとは、少し意味が違う気がする。「仕事終わったよなー」そういう区切りが、カタチとして出てくるような感じ。さて、渋々買った幕の内では あったが、存外に丁寧に作られていて、好感がもてた。酒のつまみに、弁当を食べるような輩には、かえってこういうものの方が、好ましいかもしれない。


ゆっくり食べても、無くなるものはなくなる。車内販売で何か買うことにする。腹は一杯だが、とにかく暇だ。

僕にとって、新幹線の車内販売のベストメニューというのは、文句無くサンドイッチだ。別に美味いようなものでは全くないのだが、小さい頃に新幹線に乗るたびに食べていたから今でも頼む。(本気で美味しい車内販売を求めるなら、浜松あたりで売られる鰻弁当が良いらしい)今日もサンドイッチは不味かったが、やはり新幹線ではこれを食べる。胡瓜が生臭いのも、ビールに合わないのも、いつものとおり。

呼び止めた車内販売のオヤジがとても良かった。どう見てもカタギには見えない。40代前半だろうか、白髪混じりの伸びきったパンチパーマ。巨大なもみ上げ。着ている制服は、くたびれてよれよれ、普通なら、気が滅入るような代物。しかし、夜の疲労と倦怠の渦まく新幹線の中で、黙々とビールやつまみを売る彼の姿に、僕はなんとも言えないプライドのようなものを感じた。きっとはやくに離婚していて、娘二人を男手一つで育てているに違いない。夜遅くの車内販売はハードな仕事だが、彼は家族のために頑張っているのだ。過去からきっぱり足を洗って、、と、100%僕の勝手な想像なので、本人にはいい迷惑だな。でもそんな雰囲気の人ではあった。

領収書を頼んだら、手元に無いからと言って、嫌な顔一つせずに後からわざわざ届けてくれた。とても親切。


豊橋あたりで、小うるさい3人組みが乗り込んできた。訛りの感じからして、ドイツ語圏の外人2人。それを案内している、20代後半の日本人女性1人。会話は、怪しい英語で行われている。それまで、静かで快適だった車内に、少しだけ不穏な気配。案の定、なんともうるさい。日本人の女の得意げな(しかも巧くない)英会話が、静かな車内に響き渡る。

その連中が、もみあげの彼の車内販売を呼び止めた。ビールは無いのか、なんだ、かんだとやっている。バカ女の誇らしげな同時通訳が入る。(TOEIC 500点ぐらいか、、)
「コーク、あ、コーラ」
「あらら、私英語で言っちゃったー(原文は怪しげな英語)」

そういう恥ずかしい態度はきっぱりやめていただきたい、と思った。しかし、そんな奴らを相手にしても、彼は親切だった。僕の想像では、彼はきっと4ヶ国語ぐらいはペラペラなはずで(昔、禁輸品を買い付け、密かに横浜港で陸揚げしていたのだ)、その気になれば全てドイツ語で対応できるはずなのだが、 礼儀正しい彼はそういうことはしなかった。


いつの間にか眠っていた。電車はもうすぐ小田原に着こうとしていた。新横浜まで、残り20分。ビールは買いすぎて、残りを全部飲み干すには、少しほねが折れた。