またラジオを聴いている

小さい頃、僕はテレビを見ないで育った。

家には真っ赤な色のテレビがあったけれど、それは壊れていて、修理されることは無かった。台風が過ぎ去った朝、うちのテレビアンテナが倒れ、隣家の屋根につきささった。それっきり、屋根からアンテナも無くなった。

シルバーのいかついラジカセから流れてくる AM ラジオ。NHK の小難しいニュースが、僕にとっての娯楽だった。小さい頃、親のレコードに囲まれて育った子供が、やがて音楽を志すように、僕は、いつか報道の世界で生きたいとさえ思った。


それは過ぎ去ったこと。やがて、テレビも普通に見るようになった。僕は報道を仕事にはしなかった。

でも、最近、またラジオを聴いている。B&W のスピーカーから流れてくるのは、ケーブルテレビ局がフィードするクリアなFM放送。今は、音楽を聴いている。音楽を聴くようになったのは、中学生になってからだ。

休日の午後、少し冷たい風に吹かれながら、ラジオを付けっぱなしにして、微睡むのが好きだ。その一瞬だけ、僕の意識はあの日の自分に戻る。

注:微睡む(まどろむ)

カレーで頭を痺れさせる

いつものように、卵カレーを食べながら、窓の外をぼんやりと眺めている。

午後 11時。客の入りはなかなか多い。向かいの友達はタバコを燻らせながら、マトンカレーの残りをすくっている。さっきから、会話はほとんど無い。テーブルの上で、グラスの発泡酒がぬるくなっている。

何かを考えるのもかったるく、僕たちは店員の様子やら、窓枠に光る電飾やら、そんなものを眺めていた。エスプレッソを持ったインド人のウェイターが、注文したお客を忘れてしまって、ウロウロしている。そこで事件が、、起きるはずもなく、僕たちは食べ終わって外に出た。


何かをしなくちゃいけないとか、楽しくなくちゃいけないとか、そういうのばっかりは疲れる。カレーで頭が痺れて、丁度良かった。

熱したものは

熱したものは必ず冷める。
静かなものだけが残る。


1年前、僕が書きつけた言葉。
何を思って書いたのかは、忘れてしまった。