カツ丼について

今日は、カツ丼について考えてみよう。

カツ丼。蓋をとると、ふわっと蒸気が立ち上る。かかっている卵は、わりと火を入れすぎな感じ。上に添えられているのが三つ葉なら、そのカツ丼は割と 高級。刻み海苔ならまあまあ、グリーンピースだったら店の選択を少し考えた方がいいかもしれない。まあ、それはさておき、どんどん食べる。脂身たっぷり ロースカツを制覇するには勢いが大切。揚げおきのカツの衣は、油が回ってしっとり。熱々のご飯に染みわたった、醤油っぽい辛口のタレ。傍らには無論、着色 料で黄色くなった沢庵。

カツ丼はやはり旨い。しかし、最近カツ丼を食べた記憶のある人なんて、どのくらい居るのだろうか。かつて「外食の王様」だったカツ丼は、いまでは刑 事ドラマの取調室位でしか見ることができない。(実際の取調室でも、実は、カツ丼は定番のメニューらしい、、)そりゃ、あんまり格好の良い食べ物では無い し、高級でもない。健康にだって、多分あまり良くない。あと10年待っても「カツ丼ブーム」なんて絶対来ないだろう。

しかし、そこらへんの蕎麦屋に行ってみれば、絶対カツ丼はメニューに載っている。カツ丼は、逆境の中にあっても、まだ死んではいない。蕎麦屋?そう そう、カツ丼は蕎麦屋で食べないといけない。僕はそう思う。トンカツ専門店のこだわりのカツ丼とか、そういうものは、どうでもいい。蕎麦屋で出てくるカツ 丼のあの感じこそ、かつての「外食の王様」、カツ丼の雄姿として相応しいのだ。

で、どうです?今日のお昼あたり。

東京から乖離する

駅に降り立つと、奇妙な乖離感。

太陽が、頭の上に向かってぐんぐん昇る。空気がじっとり熱い。体に潜り込む、饐えた臭い。どす黒く汚れ、ベタベタした歩道。壁には、引き剥がされた ポスター、墨絵のような雨だれ。歩く人びと、投げる視線とコトバ。見慣れたいつものトウキョウとは何かが違って見える。それは、アジアの一風景。この街と のなれ合いが、その朝だけ、ふっつりと消えた。そんな感覚。

いつもとは違う道を、てくてく歩いた。

通りには、沢山のチラシを貼り付けた看板。砂埃、人いきれ、なんて汚い街。路地に飛び込むと、携帯電話で何かを話す若い男と目があった。コトバは、聞き取れない。濃い緑の、ジャガーが横断歩道を走り抜ける。


やがて、高層ビル群を傍らに望む、大通りに出る。道路は、ぴしっと直角。真っ白なセンターライン。強いビル風が、背後の喧騒を吹き飛ばした。重なり合う、幾つものビルのシルエット。夏なのに高い空。そして、空に解け合う数千の窓。息を飲む透明さ。

パークハイアット、その他の書き方

つまり、「事実」といっても、その伝え方には、いくらでも幅を与えることができる。前回の[今日の一言]と、同じ日の出来事を、全く違う視点で書いてみると、こうなる。


オフィスを出ると、もう午後の11時半近く。蒸し暑く、だるい疲労感がただよう、いけてない深夜。一人が、ポツリと言った。

「あのさぁ、ハイアットって、いいよ。」

なるほど。そういえば、あんまり近くにあるので、今まで行ったことが無かった。「じゃ、行っとく?一杯飲んどく?」ということで、行ってみた。高いと言っても、カクテル1杯で2,000円はないだろう、という読みのモトに(当たっていた)、物見遊山で一路ハイアットへ。

入り口がよく分からなかったが、とにかくベルボーイが立っているドアにたどり着いた。見るからに、キョロキョロした3名だったが、珍しく全員スーツを着ていたので、特に連行されたりはせずに、フロントを突破。

いよいよ、内部へ。

・廊下にて
「ここって、大声出したらやばいよね。そういう雰囲気じゃないもんな。へへへ。」
「ホントに、こっちでいいのかよ。なんか、景色の高級感が増大してきてるよ。」
「ねぇ、俺、トイレ行きたいんだけど、、。」

・トイレにて
「うおー、タオルが別々にかごに入ってるよ。」
「顔洗おうぜ、顔。」
「うーん、素晴らしい肌触り。これはいいわ。」

・テーブルにて
「うーん、なんかこの酒、パイナップルの味がするなー。」(知らずに頼むな)
「オレ、コレダメだわ。シロップみたいな味だ。あの、パフェとかに付いてくる、真っ赤のサクランボが好きなら、美味しく飲めそうなんだけど。」(その割に全部飲んだ)
「、、。」(雰囲気に陶酔中)

・締め
「やっぱ、割り勘はまずいよなぁ。」
「ゴールドカードないの、ゴールドカード。会社のやつ使おう。一応、金色だし。」
「週に一度ぐらいは来て、ビビらないように体を慣らそうよ。やっぱ、いきなりは、敷居高いよ。」


大盛り上がり。別に、金持ちになりたいとは思わないけれど、こういう所に平気でこられるお財布は欲しい。切実に、そう思ったのだった。

注:センチュリーハイアットではない。