夏の最後のレンゲショウマ

レンゲショウマ

Photo: "レンゲショウマ" 2010. Tokyo, Japan, Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.

だいたい、大きなカメラを持っていると、おばちゃんに記念撮影を頼まれる。あんなものを持っているんだから、写真が撮れるはず。芸術的な部分は別にして、確かにそれは正しい。実に国内外を問わず、記念写真はよく頼まれる。

夏の最後の日のような、その日はとても暑かった。御岳山の山頂、社の奥に立っていると、とても涼しい風が吹き抜け、汗が少し引く。そろそろ先を行こうかという所で、二人組のおばちゃんに呼び止められたのだ。

差し出された携帯で撮ってあげた。だいたいおばちゃん達というのは、「ここで撮って何の記念になるの?」というような、分かりにくい背景を選ぶ。今回で言えば、ただの雑木林にしか見えない背景。だから、経験的に言って、人を少し大きめに撮った方が、評判が良い。


おばちゃん達と別れた刹那、

「あなたたち、レンゲショウマよ、これご覧になった?」

と再び呼ばれる。

御岳山の夏の風物、レンゲショウマの開花時期はとっくに終わっていた。しかも、この夏の暑さだ。しかし、吹き抜ける風が、少し長く花を持たせたのかもしれない。社の片隅に、少し虫に食われながら、二輪のレンゲショウマが咲いていた。僕は多分、その姿を初めて見た。

「こんな所で、待っててくれたのね」


俯き気味に咲く花に、おばちゃん達のお陰で、気がついた。記念撮影にも良いことはある。石段で一休みし、小腹空きスナックみたいなものを分けて食べて、水を飲んでさて今度こそ行こうか。

多摩川土手

Photo: 2000. Tamagawa, Japan, Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D(IF), Kodak

Photo: 2000. Tamagawa, Japan, Nikon F100, 35-105mm F3.5-4.5D(IF), Kodak

朝、ネーブルを食べていたら、なんとなく春だなぁ、という気になった。なんでだろう。

独特の甘い匂いが、何かの記憶と結びついているのだ。調べてみると、ネーブルは、1月に出始め、4月ぐらいまで食べられる、冬から春にかけての果物。

受験、卒業、新しい学校、新しいクラス。そういえばそんな時期、朝食代わりに食べていた。薄皮をむこうとか、そういうチマチマした事を考えないで、丸ごと食えるのが忙しい朝にはピッタリだった。

新しい年になってからの数ヶ月というのは、ちょっと落ち着かなくて、不安と期待のまじった季節だった。そして、直ぐに、春が来るのだ。ネーブルのちょっと苦くて甘い味は、そんなことを思い出させる。


いろんな事が、なんとなくうまくいきそうな。あと少しすれば、そんな風に思える新しい季節。

日の光は、少しずつ暖かくなっている。


注1:土手の花です。虫食いで綺麗じゃないけど、美しいと思います。レンゲは、春から初夏にかけての花らしい。