石川町の駅に着こうとするところで「いま品川」というメールが入る。それって、待ち合わせの 5分前に送る内容じゃないだろ。結局、待ち合わせはえらく要領の悪いものになり、僕は大雨の中を震えながら待つことになり、関帝廟のあたりでえらく不満な 表情で待ち人に出会うまで小一時間かかった。
雨の中華街は肌寒く、よっぽど地方から来た人が予定だから仕方なく来ているような、そんな感じでガラガラだった。これなら行列の店にもすぐに入れる かもしれない(入ったことはないが)、と思いながら善隣門をくぐる。とはいっても、今日目指す店には、ついぞ行列などできないらしいが。
チャーハンとエビチリと春巻き、みたいなものを食べたくは無くて、モツを売りにする広東料理に来てみた。知る人ぞ知る、中華街の奥深くにある、とい うわけでもなく、善隣門の直ぐわき、間口は狭いが思いっきり大通りに面して、目的の「楽園」は普通にある。店は薄暗くて、細長く2列のテーブル席が並んで いる。知らなければ絶対に入らないと思う。
とにかく寒かったので、暖かい紹興酒でも飲もうかと思ったが、瓶売りなので白乾(中国の焼酎みたいなもの、かなり強い)にする。苺のような独特の香 りと、強いアルコールで、まあ、無理矢理少し暖まってきた。値段からして(530円)ショットグラスに 1杯かと思って頼んだら、お銚子になみなみ入ってきた。
白乾を飲みながら、メニューを考える。センマイのネギ・ショウガ和えと、巻揚、海老チャーハン(食いたくないって言った割に頼んでる)。
暫くして、どん、と出てきたのがセンマイ。値段の割に量もたっぷりしていて、期待できる。テーブルの向かいの、「何これ?」みたいな顔に答えるべ く、食べてみる。臭みはまったくなくて、独特の食感だけが残った完璧な処理。少し強めの塩味とネギの香気。モツの旨み。これは良い。何?美味しい?それは 良かった。全く、こんな構えの店で、こんなものが供されている。ただの観光地、という言い方もされるけど、中華街にはやはり厚みがある。大学時代を横浜で 過ごして、お金がなかったからしょっちゅう来るなんてできなかったけれど、何か懐かしさを求めて中華街に来てみたのだ。
あの頃と違うのは、もうお金を気にしてびくびく注文しなくていいこと。で、お金は気にしないけど、カロリーは気になること。一皿目で完璧に分かった のは、この店は素っ気はないけど、真っ当に美味しいものを、ちゃんとした(むしろ安い)値段で出していること。もうこうなると、安心してしまう。店の姉さ ん達は、奥のテーブルで新聞を読んでいて、後ろのテーブルの男は、紹興酒を一瓶空けそうな勢いだ。外は寒い雨が降っていて、僕たちは少し昔の話をしてい て、目の前の料理は上々。悪くない。
巻揚が来た。巻揚なるものが美味い、という情報を鵜呑みにして頼んでみたのだが、これまたなんだか分からない食べ物だ。(知ってる人には常識なんで しょうけど)細く切った筍、豚肉、椎茸などを(多分)簾で巻いて、香ばしく揚げてある。ぎっしり詰まった筍が贅沢な食感。これ美味しい。チェイサーにビー ルを頼んで、代わり番こに白乾の杯を啜りながら(それぐらいの間がちょうどいい強さだ)、モツを食べ、巻揚を食べる。それにしても、量が多い。結局、もう 一品野菜炒めをもらって、満腹になった。もっといろいろ試したいけど、これでキリが良い。
その日、雨は結局やまず、少し懐かしい横浜をゆっくり歩いて見ることもなく、初めて行くバーで長々と飲んで帰った。そういえば、横浜駅の真ん前で、ものすごく酔って震えていた、そんな時もあったな。
追伸:お土産にかった肉まんも大変結構でした。
注:中華街を楽しむなら、個人的にはやはり大箱は避けて、庶民的なお店で普通に美味しいものを食べることをお勧めします。そういえば、横浜開港から始まる中華街の歴史は、一世紀以上あるんですね。