臭い花

Photo:"Stinky flower."

Photo:”Stinky flower.” 2001/5. Santa Tresa, San Jose, CA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

脳が匂いのデータを処理する領域は、記憶を司る領域に近いから、記憶と匂いは結びつきやすい。というデマっぽい話を長く信じていたのだけれど、改めて調べてみるとそれはだいぶいい加減な話だったようだ。それでも、忘れがたい匂いも、匂いから蘇る記憶も、そういうものは確かにあるので、数年後の科学はまた意見を変えるかもしれない。


20年の時を経て、未だに鮮明に頭の中で再現できる匂いの1つが、San Joseの臭い花の匂い。カラカラの砂漠に、がっしり根を生やした凶暴そうな植物の花は、近づくと咳き込むような臭気を放った。

何のロマンスも、何の美しさも無い臭い匂いが、ずっと忘れられないのだ。

モエレ沼公園、HIDAMARIの静謐な景色

Photo: "GLASS PYRAMID 'HIDAMARI'."

Photo: “GLASS PYRAMID ‘HIDAMARI’.” 2018. Hokkaido, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujinon XF23mm F1.4 R, Velvia film simulation.

自分の中の、いつか訪れてみたい場所。そのリストにずっと入っていたのが、イサム・ノグチ基本設計のモエレ沼公園だった。僕が、イサム・ノグチ庭園美術館を訪れたのが2006年、それとほぼタイミングを同じくしてモエレ沼公園はオープンしている。


市街から、かなりの時間路線バスに乗って、終点のモエレ沼公園西口で降りる。西口、と言ったって、そこから公園の入り口まではまだ20分近く歩かなくてはならない。雨、そして5月とは言え北海道の寒風が吹き付ける。この季節に、公共交通機関で来るような所では無いのだ。(もっと近くにもバス停があるのだが、期間限定)

東側のアプローチから入ると、公園の直ぐ横は雪捨て場になっていて、なんとも言えない冷気が漂ってくる。その入り口をえんえんと歩き橋を渡ると、特徴的なガラスのドームが見えてくる。イサムノグチ美術館の展示室で嗅いだ土と藁の匂いとは全く異なる、金属とガラスのクリーンなピラミッド。


外の肌寒さに、真っ先にピラミッドの中に入った。悪天候をシャットアウトし、静謐な空間が広がっている。鉄骨の構造と、雨にくぐもったガラスの向こうに広がる景色。この場所は美しいなと思う。広いのか、狭いのか、密なのか、疎なのか。それも居る場所、向ける視線でどんどん変わってくる。ピラミッド、とは言ってもその形状は単なる四角錐ではなくて、公園側に向けて切り欠いたように開かれている。

そして、鐵とガラスで出来た空間には、温かみが漂っていた。

煤けた壁と、台湾総選挙

Photo: "Far east mozaic."

Photo: “Far east mozaic.” 1995. Haebaru, Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

先々週、奇しくも、というか確信犯的に友人のうち2名が別々に台湾に行っていた。一人は人生の終の棲家を探しに、一人は、、なんだ趣味かな。街をほっつき歩きながら送られてくる豆花とか、共産党の旗とか、いかげそ揚げとか、そういうものが互いに交わるでも無く、同じLINEチャットに勝手に投稿されていく。

ちょうど同じ日に新しく来たApple TV 4Kで、僕は東京から普通に台湾のニュース番組のライブを見ることができた。開票速報から、蔡英文の外国プレス向け勝利宣言まで。後世の歴史は、今のアジアの情勢をどう描くだろうか。もちろん、その時に歴史を描いているのは、その時代の勝者だろうが。


初めて台湾に行ったときは、現地のコーディネータには「ホテルの部屋には盗聴器があるかもしません」と言われて、大いにびびった。今考えれば、たかが学生の研究旅行に盗聴も無いと思うが、国民党一党独裁であった当時の台湾では、まだそんな警告にも真実味が感じられたのだ。

今、台湾でそういう緊張を感じる事は無い。すっかり変わった台北の世界標準な都市の風景、平和な夜市の賑わい。建物の外壁がなんだか煤けている事だけは、変わらないけれど。