日式居酒屋の廊下

Photo: "Izakaya corridor."

Photo: “Izakaya corridor.” 2019. Tainan, Taiwan, Apple iPhone XS max.

台北から台南へは、高鐵(新幹線)で行くわけだが、乗り換えやらなんやらで、それなりに時間がかかる。高鐵の駅は日本の新幹線と同じように、在来線の駅とはちょっと離れている。高鐵の台南駅から、在来線の台南駅まで行って、駅前のホテルに荷物を放り込むと、だいぶいい時間になっていた。

遅くまでやっていそうな居酒屋数軒に「ラストオーダー終わりました」と立て続けに振られた。面白い事に、どの店も日本式の料理を売りにしていた。入ることは叶わなかったが、どの日式居酒屋も若い客で溢れていた。台北と違って、台南の夜はあまり店も開いていない。地方都市なのだ。何ブロックも彷徨って、そして、なんとか見つけた別の日式居酒屋の看板に滑り込んだ。


もう、深夜だが台南の空気はじめっとした熱気を含んでいる。まさに熱帯夜だ。日帝時代から動いているんじゃ無いかと見える、年季の入った数台の大型扇風機が、ねばっとした空気をバタバタとかき混ぜている。南国独特の日差しと雨を避けるように作られた廊下に出したテーブルから、煤けた通廊を眺めるのは、とても良い風情だ。

そう言えば、台湾の居酒屋ではビールは自分で冷蔵庫から出すらしい。でも、日式なので普通に瓶を持ってきてくれた。薄い飲み口でよく冷えた金牌ビールは、それだけで十分だった。ツマミは、刺身などもあったけれど、流石に火の通ったものにしようという事で、焼き鳥然としたものを取ったが、なかなか良かった。

熱気の冷めない街路を、原チャリがなかなかの速度で走り抜けていく。その様子を見ながら、熱帯夜の暑気を、薄っぺらいビールで流している。そういえば、台南で何をするかは考えていなかった。

展示:東京中心

Photo: “Tokyo scenery.”

Photo: “Tokyo scenery.” 2018. Tokyo, Japan, Apple iPhone 6S.

コアタイムの無いフレックス。ルール上、いつ何時に会社に行ったって良いわけだが、平日午前中に会社とは反対方向の電車に乗ると、ちょっとした背徳感を感じる。

六本木ヒルズは、展望台も森美術館も、週末とはうって変わって閑散としている。とりたてて見たい展示があったわけでは無いが、組木で作られた壁面構造の巨大な展示や、木造高層住宅の模型などを面白く見て、それからついでに展望台に行ってみた。


靄に包まれた東京の町並みは、デートだったらいささかガッカリするのだろうが、一人で来ている自分には落ち着いて気分の良いものだった。実際、あまりはしゃいでいる客も居らず、まるで美術館の展示のように、無節操に、重層的に開発された都心の景色が静かに広がっていた。

たまには、この時間に来てみるようにしよう。そう考えてから、未だ実行してはいない。

夜市の炒飯

Photo: "Fried rice stall at night market."

Photo: “Fried rice stall at night market.” 2019. Taipei, Taiwan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter

数年前、インドの地元向け(といっても、割と高級店)レストランのランチで、完膚なきまでにやられてしまった友人が、夜市に行くと言い出したときに、僕は内心驚いていた。僕が唯一、海外でやられたのは台湾であって、その意味では僕の方が、食中毒には敏感になっていた。友人が選んだ小さな(こじんまりとした、とでも言えば良いか)雙城夜市は、ほんの数分で端から端まで歩けてしまう大きさだった。

やけにアグレッシブに夜市を歩く友人は、まずは腸詰めの屋台で足を止め、巨大なフランクフルト然としたものを頬張っている。腸詰めを薄切りにしたものは好きだが、あんな塊で食って美味いだろうか。腸詰めを平らげるとまた、短い夜市を端まで歩いて行く。僕は、屋台やら、犬やら、果物やらを撮りながらちょっと間を開けてついていく。


炒飯の屋台は、相当に仕上がった感じの肌着然としたシャツを着こなしたオヤジと、若い奥さんかあるいはアルバイトなのか、30前半あたりの女性の2人で切り盛りされていた。友人はそこで歩みを止め、菜譜を吟味しはじめる。今にも泣きそうだった夜空からは雨が落ち始め、巧妙なギミックでトタン板を繰り出す周りの屋台に比べて、その炒飯屋台はあまりにも無防備に驟雨に晒されていた。

オヤジの手際が悪いわけでは無い。直前に、空気を読まずに3品も4品もオーダーを入れた、西洋人の女子4人組みのお陰で、友人の炒飯はさっぱり出来上がってこなかった。雨は更に強くなり、夜市の灯りに集まる羽虫を捕まえに、ひっきりなしに頭の上を飛び交っていた子育て中の燕の姿も、まばらになったか。

炒飯は出来ない、雨は降る、オヤジは中華鍋をふるっている。もう、炒飯が食いたいとか、食いたくないとかそういうい事では無いのだろう、意地みたいなものだ。思えば、夜市で雨に降られたのは初めてかもしれない。ベテランの屋台達は慣れたもので、巧妙に収納された屋根をせり出し、パラソルを展開し、雨水受けのバケツを置き、客足の途絶えた焼きトウモロコシ屋の店主は優雅に煙草をふかしている。かの炒飯屋台は、特に屋台自体に工夫はせず雨は無視する、という方式を採用しているようだ。


周りがすっかり雨の匂いにそまった頃に、炒飯が出来てきた。持ち帰り用に、パックに詰められている。それを、手近のテーブルの上に置いて、食べる。僕も、味見程度に食べてみる。ニンニクと胡椒の味が強い。なんというか、オヤジが土曜の昼に作りそうな、まあそんなものを食ったことは無いが、そんな感じの味だった。夜市、面白いね。