鹿肉

Photo: 鹿の朴葉味噌焼 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, VGA.

Photo: "鹿の朴葉味噌焼" 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, VGA.

「この前、初めて鹿を食べたんですよ」
なるほど。
「そしたら、凄く美味しくて、それ以来鹿を見る目が変わっちゃったんです」
はあ。
「テレビとかで鹿がいても、じゅるじゅるって感じです」
、、。

ということで鹿を頼んでみた。


確かに鹿はうまい。脂の少ない野の物だから、バクバク食べてもなんとなく体に良いことをしたような気になる。それに、こういう食べ物は、人の体を芯から元気にする。

彼女が動物としての鹿を、どんな目つきで眺めるのか僕は見たことがないが、目の前に出てきた鹿の輪切りを幸福そうに眺めている様は、見ていて嬉しくなる感じだった。

まあ、僕は動く鹿の姿を見ても、「美味しそう」とかは思ったりしないが。

お子様ランチはあんまり嬉しくない

Photo: アンナミラーズのハンバーガー 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, VGA.

Photo: "アンナミラーズのハンバーガー" 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, VGA.

アンナミラーズはケーキ屋ではあるけれど、ちゃんとハンバーガーやサンドイッチを食べたいと思った時に意外と良い。


場所柄、そのアンミラの客の大半はビジネスマンだった。ランチメニューのベーコン・チーズ・ハンバーガーは、齧るとちゃんと熱い肉汁が滴った。(というか、熱すぎ)

テラス席のほうに、4人の子供たちがいた。彼らにはお子様ランチが(そんなメニューがあるのだ、意外にも)用意され、近くのテーブルでは保護者とおぼしき母親が 3人、別メニューを食べている。子供は子供同士、勝手にやりなさい、という訳だ。


親も子供も、なにかのお出かけの帰りだろうか、ちょっとだけ余所行きの格好をしている。

そして子供たちは、面白くもなさそうに、お子様ランチを食べていた。炒めたスパゲティーも、星条旗の旗の付いたケチャップライスも、特に感慨を沸き起こすものではないみたいだ。
「外食は手抜きってのが、バレてるんだよな、、多分」と友達が言う。お子様ランチが嬉しくないなんて、、。


淡々と食べ終えて、子供たちは広場のほうに遊びに行ってしまった。緑色のメロンソーダは、半分残ったままだった。


注:自分がお子様ランチを喜んだのか、実のところよく覚えていない。(旗は嬉しかったような気がする)もしかして、お子様ランチ=嬉しいというのは、サザエさんによって刷り込まれた擬似記憶なのか?

真円に削った氷

Photo: グラス 2002. Osaka, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RDP III

Photo: "グラス" 2002. Osaka, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RDP III

向こうのカウンターで、一人客の取り留めの無い話を、初老のヘッド・バーテンダーが聞いている。

ホテル最上階からの冬の夜景は、ガランとしていて、少し寂しい。

ソファーに沈んで、そんなバーの景色を眺めている。


冷たいグラス。

コストと合理性を考えるなら、手で真円に削った氷は意味がないかもしれない。酔うためだけなら、もっと安上がりなやり方はいくらでもある。ただ、そうではないお酒を飲みたい、そういう日もある。

オヤジのお中元洋酒だと思って、飲んだことがなかったカミュ、という名前のブランデーは、存外悪くなかった。


蝋燭の炎に照らされた透明な氷と、磨き上げられたグラスは、飲むのが惜しいほど綺麗で、眺めていると優しい琥珀色の香気が、立ち上ってくる。

いつの間にか、お客がまばらになっていた。カウンターの客は、まだ何か話している。

僕は、少し氷の溶けた残りのお酒を、ゆっくり飲んだ。