しみじみPrime Bone-In Rib Eyeを食べる、そして食べきれない

Photo: “Prime Bone-In Rib Eye.”

Photo: “Prime Bone-In Rib Eye.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

店には少し早めに着いた。コンシェルジュのお勧めと、このあたりに詳しい営業のお勧めが一致したのがこの店で、週末とはいえ大層な繁盛ぶり。今回一緒に来ているお客さん達は、先にウェイティングバーで地ビールをやっていた。なにはともあれ、仕事はうまくいったのだから、この数日の難しい表情も無くなって、皆朗らかだ。判断力も言語力も使い果たしていて、席順もろくに決められずにもたもたして、合コン形式で混ぜる感じで行きましょうという方針で、なんとか席に皆を押し込む。全員オッサンだけど。


別に、料理に期待をしていたわけではない。もう、仕事は終わったので、何を食べたってたいていかまわない気分で、エレクトリックタワーというとんでもない名前の地ビールからスタートした。アルコール度数 7.1% IPA でアルコールの後味を感じる強さ。半ば強引に前菜の盛り合わせをお勧めされて、出てきたありがちなフライドカラマリに、一同驚く。これ、明らかにうまい。出張で行くようなアメリカのレストランて、油断していると直ぐに前菜に烏賊を揚げはじめるイメージなのだけれど、衣の薄付き具合といい、塩加減といい、火の通し方といい、明らかに一段うまい。これは期待できるんじゃないか、ってみんなが思った。


ゆっくり食べて、ゆっくり選んで、1時間以上過ぎたところで、骨付きのTボーンステーキ、Prime Bone-In Rib Eye が運ばれてきた。香り高く、塩味は濃い。アメリカのステーキレストランの印象というのは、肝心の味付けはお客に任せるという、それって料理という意味ではどうなの?と思ってしまう印象なのだが、この店はステーキもきっちり味を決めて出してきた。ジャリッとした炭化さえ感じる直火で仕上げた外側、しっかり脂のとけたミディアムレアの内側。肉を食べる文化は、やはり恐れずに火を通す、その思い切り。これは美味しいですねぇ、と話しは弾む。

けれど、やっぱり食べきるのは難しかった。頼むのは、半分の量で良かったかな。

「沖縄では、飲んだ後ステーキでシメる」は幻から始まった

Photo: "Jack's Steak House."

Photo: “Jack’s Steak House.” 2019. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, PROVIA filter

「沖縄の人は、やっぱり飲んだ後ステーキで締めるんですか?」

「いやー、それはないですね。夜にそんなもの食べられないですよ」

「え。。」

那覇の地元民向けお洒落居酒屋。マスターがいろいろ教えてくれるので、今回もカウンターに陣取っている。この後、何でシメるのか、やはりステーキに行くべきなのか。背中を押してもらうつもりの若者の質問は、しかし全否定で返された。

「もともと、規制があって0時過ぎはお酒を出して営業することが出来なかったんですよ。でも、深夜にアメリカの兵隊さんに食事を出す必要があったので、ステーキ屋は0時を過ぎても営業が許されたんです。」

あー、確かにAサインを掲げるステーキハウスは多い印象。

「で、沖縄の人も遅くまで飲みたいときは、ステーキの店に行って、みんなでステーキを一皿注文して、それをツマミにお酒を飲んだんです。」

そう、別に夜中に好きでステーキを食べていたわけでは無いし、それをシメにしていた訳でもないのだ。


「でも、そういう歴史を知らない若い人達がテレビを見て、ああ沖縄では夜にステーキを食べるんだと。で肉を食べに行き始めた、っていう感じでしょうかね。」

シメのステーキ。それは、テレビで「秘密のケンミンSHOW」を見た沖縄の若者が作った、幻の伝説。そしてそれが、今や現実になってしまった。時代は、メディアが描いた世界をなぞるのだ。じゃあ、我々も幻想を現実化しよう。ステーキハウスいっぱい有るけど、どこに行きましょう。

「私はジャッキー派なんで、是非ジャッキーに行ってください」

会話に入ってきた店員の女子の、確信に満ちたアドバイスによって、ジャッキーに決定。あの謎のスープも、眩しすぎる照明も、生暖かい肉も、僕にとっては何一つ好きな感じがしなかったのだけれど、確かにあそこにしか無い、空気が有る。

「丁度、今なら時間もピークを過ぎて、青信号じゃないですかね」

という声に送り出されて、我々はジャッキー ステーキハウスに向かった。
(続く)

俺レシピ オージービーフ 300g

Photo: オージービーフ 300g 2008. Tokyo, Ricoh GR DIGITAL, GR LENS F2.4/28.

Photo: "オージービーフ 300g" 2008. Tokyo, Ricoh GR DIGITAL, GR LENS F2.4/28.

肉が余ったので、というと嘘くさいが、本当に安いステーキ肉があまったので、一気に二枚焼いてみる。

日本酒を振りかけて、海塩と胡椒をして放置。その間に、サラダをつくる。何が何でもトマトが好きで、冬場にこれほどお買い得感のない野菜もないけれ ど、つい入れてしまう。青物はワサビ菜。ワサビのぴりっとした風味がするチシャみたいな葉物で、旬はよく分からないが一年中出ている。

オリーブオイル、ごま油、海塩、酢、胡椒、醤油あたりをグルグル混ぜてドレッシングを作っていると、下ごしらえした肉もよい頃合いになっている。


僕が気に入っているリバーライトのフライパンは鉄のちゃんとしたフライパンで、安い。それを煙が出るまで、カンカンに熱して、オリーブオイルを(ホントは高温で使ったらダメなんだけど)馴染ませたら肉を放り込む。

こういう時には、柳宗理の穴あきパスタトングが、最高に便利。なんでも器用に掴めて、洗うのも楽で清潔。菜箸がわりに、あらゆる用途で使っている。 肉は、強火で、蓋をして片面 1分、ひっくり返して、蓋をして反対側 1分。フライパンが暖まっていれば、肉はくっついたりしない。


お皿に肉をあげて、フライパンに残ったいかにも体に悪そうな肉汁に、醤油、酒、チューブのニンニク(これは手間を惜しんで妥協してしまった)を投入して焦げ目を剥がすようにグルグル混ぜる。甘い匂いが立ち上ったらジュッと肉にかけてできあがり。これで、700円ぐらいなもんだから、オージービーフっ て凄い安いな。

日曜日の昼飯に、えらく重たいものを作ってしまった。南の空に浮かぶ、とりどりの冬の雲を見ながら、食べる。まあ、平和な午後。そういえば、季節はずれな近所の風鈴の音は、いつの間にか聞こえなくなっている。