冷えた唐揚げ

Photo: red leaves 2009. Saitama, Japan, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA), cRAW

Photo: “red leaves” 2009. Saitama, Japan, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA), cRAW

寒い。

歩みをとめると、とたんに気温の下降を感じる。

頂上にたどり着く頃にはすっかり汗をかいてしまっていて、とてもまずい。山頂が思ったより遠く、想定したのと異なるコースをとったようで、家族向けのハイキングコースのつもりが、枯れた沢を遡上する旅、になってしまった。まあ、いつもの事だが。


僕がよく見ている、Man vs. Wild では水浸しになったベア・グリルスが、(氷河のど真ん中で)全裸になって焚き火を起こしたりしているが、それに習って着替える。(全裸にはならないが)乾いた服に着替えると、気分はとても良くなった。

麓のけっこう大きなスーパーで買ってきた唐揚げは、すっかり冷え冷えとして、シナシナになっている。あと、餃子を買ったのはかなり失敗だった。我々の他に誰も居ない、静まりかえった山頂で、モソモソと昼メシを食べる。でも、やっぱり登ったあとに食べるものは、それなりに美味しいのだ。(でも、実は量はあんまり食べられない気がする)


じっと座っていると寒いので、紅葉を撮ったり、twitter で呟いたりしながら食事を流し込む。カラカラに乾ききった冷たい空気に触れて、楓が真っ赤に縮こまっている。誰も居ない山の奥で、秋がしっかりと木々を覆っている。

さて、雨が降る前に下るか。

紺碧

Photo: 2004. Miyazaki, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EB-3

Photo: 2004. Miyazaki, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EB-3

旅に出ると、いいなぁと思う一枚が撮れることがある。それって、その時の自分の気分とかが大事な気がする。

あまり打算的に撮ると、ろくなものにならなくて、ベタベタな言い方をするとあまり考えずに素直に撮った方がいい結果になる気がする。

(おもしろいことに、買ったばかりの慣れないカメラで機材に振り回されながら撮ると、意外とよく撮れる。上手く撮ろうと考えない、それが大事なんだろう)


起き抜けに、カメラを構えて適当に近くの海岸を撮った写真。今回の旅で僕が一番気に入った写真は、(まあ、ただの海岸線ではあるのだが)なんとなく湿った朝の気配を含んで、夏の雲が輝いていた。こんな写真とったかなぁ、というような、そんな思いで眺める。

どうやったら良い写真が撮れるの?ということをたまに聞かれるが、やっぱりそれは沢山シャッターを切ることなんじゃないか。で、意外とどんな風に撮ったかも覚えてないような、そんな何気ないタイミングの写真こそ、現像からあがってきたポジを見て、えらくビックリするいい一枚になっている。

自分がつくりだしたものを、ちょっと嬉しく思う。自分の気持ちを含んだものが、形としてできあがってくる。そういうのは、やっぱり良い。

灯台の傍

Photo: 2003. Nagasaki, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EBX

Photo: 2003. Nagasaki, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EBX

建ち並ぶ民家の隙間から、ふと灯台が見えた。

狭い狭い路地を抜けて、近づいてみると、灯台はまっすぐに空にのびていて、とても綺麗な形をしていた。岬は恐ろしく静かで、ただ強い西日が僕の腕を焼いていた。

灯台の近くには、いくつも民家があった。木造平屋の、古めかしい建物。僕が、小学生の時に住んでいたような家。一瞬だけ、そこでの生活ってどんな感じなんだろうと思った。灯台の傍、朝も、昼も、夜も、それを見る暮らし。潮風が、サッシを叩く。夕日を受けて、小さく建っている家々は、少し侘びしげに見えた。


五島列島に来たことに、深い意味はない。ただ、あまり聞いたことがなくて、南の方にある土地にいってみたかった。

何があるのか、よく分からなかったのだが、海と太陽はちゃんとあった。「季節もいいから、海の色は綺麗だよ」とタクシーの運転手は言っていた。ほかには、あんまり、なにも無かった。それはそれで、悪くない。

海辺には、誰もいなくて、太陽と灯台だけがあった。あと、フナムシもいるなぁ。