コンベンションセンター・ディストピア・ランチのルール

Photo: “The rules of convention center dystopia lunch.”

Photo: “The rules of convention center dystopia lunch.” 2018. Las Vegas, NV, US, SONY Xperia.

初めての海外出張から20有余年、アメリカ出張におけるノウハウは高度に進化した。出張中の健康を維持するための、食事のノウハウ、つまりコンベンションセンターのランチにおけるメニューの選び方だ。(注:トレードショウ、やプライベートショウでは、たいていバカでかい会議場、コンベンションセンターが使われる。日本だと、幕張メッセとか、パシフィコ横浜とかが近い。規模は、もっと大きい。)

精神と肉体の両方に蓄積する疲労、減退した食欲、見た目と味の一致しないメニュー、外人ミーティングを控えたプレッシャー。この状況下で、正しくコンベンションセンター・ランチのメニューを組み立てなければならない。


まずは飲み物。季節を問わない強烈な冷房で、水分は相当に失われる。この状況では飲み物はコーラ一択。SASもお勧めの世界共通万能ドリンク。使う糖類の選択はローカルのベンダーに任されているが、フレーバーは世界共通で外しが無い。スプライトなんか、見た目がさっぱりしてて良さそうだが、メリケンのスプライトはなんか味が違う、ワイルドな味がする。自暴自棄になってドクター・ペッパーなどを選ぶのは、まあ自由だ。

軽く飲み物を選んだら、ファーストプライオリティーはスープだ。圧倒的な冷房からくる冷え、これは海外出張で日本人を悩ませる大敵だ。だから、スープが有ったらそれは迷わず、行列があっても、ウェイターが不機嫌そうでもよそってもらおう。それがトマト系ならだいたいうまい。クラムチャウダー系だと5割ぐらい不味かったりするが、熱のあるものをとれる貴重なチャンスだ。


選択肢にサンドイッチが有れば、それはだいたい正義。ハンバーガーとサンドイッチについては、アメリカは任せられる感じが有る。具がターキーだとちょっとがっかりするかもしれない。たくさん肉が入っていそうなものを取り敢えず選ぶ。流行に乗ってヴィーガンを選ぶのも悪くは無いが、中のオリーブが強烈な味だったりして、驚くかもしれない。

サラダ。サラダは取りたい。カリフォルニアの凶暴な日差しのなかで育った力強いほうれん草的な植物や、日本では高価なロメインレタス的なものを中心に選びたい。メリケンの油飯で体調を崩しがちなアジア人は、ここで野菜を取っておくべきなのだ。ベジタブル・ソテー的なものは火が通っていて魅力的だが、野菜炒めとは本質的に異なる思考で作られているので、味が無かったり、しつこかったり、未知のスパイスが混入している可能性が有る。


メインディッシュ。ここまで来ると、肉とかはあんまり取りたくなくなってくる。インド勢用にマトンカレー的なものが有ったりするならそれを取るのも良いが、消化に体力を削られる恐れがある。もしそこにサーモンが有れば、それはぜひ取りたい。アメリカ大陸沿岸には食用の海洋生物として、サーモンとカラマリの2種類が生息しており、あらゆるシーフード料理はこのいずれかから作られる。

カラマリの方は、たいてい夕食のスターターとして日本のお通しのように強制的にバンドルされてくるので、昼には出てこない。サーモンは法律でバターでのソテーしか許されていないので、いかなる状況でもこれを外すことはない。遠近法が狂っている関係で、切り身のサイズが日本とはかけ離れて大きいことに気が付かないかもしれない。昼にふさわしい量は一切れなので、厳守すべきだ。


これらのルールを守れば、写真のようなコンベンションセンター・ディストピア・ランチを素早く完成させることができる。これが、20有余年の成果だ。(一見すると少なく見えるが、もの凄く腹一杯になる)

香川雑感 その2

Photo: “Firefly squid tempura.”

Photo: “Firefly squid tempura.” 2018. Kagawa, Japan, Apple iPhone 6S.

琴電にゆられて数駅、待ち合わせの場所に居た友人は、自己流というヨガのせいなのか随分痩せた。

 

この街にたいしたものは無い。そう彼は言ったが、目の前に瀬戸内海が広がるだけあって、一軒目の居酒屋で出た蛸墨の天ぷらなどは初めて目にした。ホタルイカの天ぷらも、多分初めて食べて、感心する。個室は東京より、明らかにスペースに余裕がある。窓の外の、低層の建物を見るとはなしに見ながら、酒を飲む。6月末の夕暮れ、どんよりとした空。


その後に、名物料理「骨付鳥」をこなすために半ば義務的に連れて行かれた鳥料理の店は、讃岐コーチンを揚げてあるのだけれど、友人の言うようにひらすら塩辛い。友人の店に対する評価も、その味付け並みに辛い。しかし、イカ刺しとか、カレイの唐揚げとか、いつも食べるメニューがちゃんとある感じで、僕にとってはそれ程悪い印象では無い。骨付鳥は、毎回は頼まないだろうが。

3軒目。バーのマスターはメキシコから流れてきたような風貌で、受け口な喋り方と方言で、何を話してくれているのかさっぱり分からない。店の内装も、マカロニウエスタンで見た、メキシコの田舎屋を模したような壁。


最後にホテルのバーで飲んだのは、シャンパーニュ。銘柄はなんだかわからないが、この街で一番のホテルの最上階で飲むシャンパンは確かに、大変良かった。高価であることには、高価であるだけの意味がある。何かを区切るような、そういう種類の酒なのだろう。

山羊ページと山羊の味。

Photo: “A goat soup.”

Photo: “A goat soup.” 2016. Naha, Okinawa, Japan, Apple iPhone 6S.

羊ページを、山羊ページと間違えて覚える人も世の中には居るようで、そんな風に覚えてしまうといかに優秀な検索エンジンをもってしても、ここに再びたどり着くことはできないらしい。

じゃあ、山羊ってどんな味なんだというと、それは沖縄で食べてみるのが一番だ。


昼飯時。仕事場の近所の、いかにもローカルな食堂で、「山羊汁」の札を見つけて、そこはやはり頼むしか無かった。ヨモギ入れますか?と聞かれて、意味は分からなかったが頷いた。そして、ヤツが来た。

見た感じ、ちょっとコーンビーフと言っても良いような、繊維感のある肉質。ヨモギは結構盛大に入っている。それでは一口。。

少しカントリーサイドに、というか、風向きによって牛糞だの鶏糞だのの臭いがする暮らしに慣れた人にとって、山羊の味を想像するのはとっても簡単だ。飼料が入ってるサイロ、あのあたりの臭気を口いっぱいに詰め込む感じ、以上。

動物を頂いている感満載。控えめに言って、吐きそうなギリギリ感。それをなんとか救ってくれるのが、ヨモギの清涼感。これの助け無しに、この料理を完食するのは多分無理。難易度が高いと言われる名物は色々あるが、なんとか完食できなくは無い絶妙なハードルの高さという意味では、良いんじゃないかな、山羊汁。

Photo: “Goat sashimi.”

Photo: “Goat sashimi.” 2016. Naha, Okinawa, Japan, Apple iPhone 6S.


ちなみに、山羊肉は加熱すればする程、臭いが出るそうで、実は刺身で食べるのが、一番クセが無くて美味しいんだそうだ。那覇の夜。茹だるような気温の店内で、緩く扇風機がかかる中、常温で置きざらした山羊肉を生で頂く。

幾分のスリルと、ニンニクが効いて大層美味しかった。