Photo: "ニッカ" 2005. Sapporo, Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.
札幌に行ったときに、必ず行くバーがあった。別に、お洒落だとか、カクテルが旨いとかいうのではなくて、とにかく安い。すすき野の一等地にあるくせに、店内に飾り気は一切無し。メニューの中心は、国産のモルトウイスキー。つまみも簡単なものが中心で、男の独り客がスパルタンにカウンターで飲むといった、かなりいかつい店だ。
さて、この間、久しぶりに行ってみると、扉を開けて入ったは良いが暫く呆然としてしまった。店の名前も、場所も同じなのに、店の中が全然違う。カウンターは夜景をバックに通りに面した側に移され、「止まり木」程度だったテーブル席はきちんと寛げる「テーブル席」に変り、コンクリ打ちっ放しの床は板張りにと、今風に改装されていたのだ。
そして、僕はカウンターの女性のバーテンの前に通された。というか、バーテンが女性だけだ。ちなみに、前の店(?)はバーテンは苦み走ったオヤジだけだった。怪訝な表情を浮かべながら(浮かべたくはなかったが、浮かんでしまっていたはずだ)メニューを繰ると、ダイニングバー並みのフードメニューの充実。前の店では頼んだことがないカクテルが全面に押し出され、メニュー単価は順当に上がっており、なにがなにやら。まずは、オンタップのビールを頼んで気を落ち着けた。ビールはちゃんとしていた。
店がいったいどうなったのか、バーテンに聞いてみた。2年ほど前に全面改装したのだという。なるほど、札幌は2年ぶりで、僕が最後に行った直後に改装されたのだろう。店のスタッフも大幅に入れ替えられて、もう昔の面影はない。バーテンの彼女にしても、改装されてからスタッフだという。少し寂しい気分になったが、それはそれ。以前のカラカラしたピスタチオのあてよりも、新しい店で出てくるカカオの強い生チョコのお通しのほうが、よほど気が利いている。
女性で「酒が好き」という人は、ホントに酒が好きな人が多い、というのが僕の印象なのだが、たまたまこの日僕の前に立った彼女も、「酒が好き」でこの仕事をやっているという。彼女が勧めたのは、この「スーパー・ニッカ」の原酒。つまりブレンド前のシングルモルトで、55.5%。え?、スーパー・ニッカ?という声が聞こえてきそうだが、これは美味しかった。もちろん、高級な味はしない(値段も、とても安いのだ)。でも、筋の良いハウスワインというか、毎日仕事上がりに1杯飲むのに良い、素朴な味がする。酒が好きな人が好きな味。価格は安く、普通には流通していない。やみくもに、高いものを勧めるのではなくて、ちゃんとこういうものを出せるってたいしたものだと感心。店は全然変わったけれど、また新しい歴史がつくられていく。