都会で育つこと

Photo: molt 2008. Tokyo, Ricoh GR DIGITAL, GR LENS F2.4/28.

Photo: "molt" 2008. Tokyo, Ricoh GR DIGITAL, GR LENS F2.4/28.

「僕はここで育ったんです。で、縁あってこのお店に勤めることになりまして。」

帰り道から少しだけ外れたところにあるバーは、かなり急な階段を 3階分登らなくてはならない。ここが危うくて登れないようであれば、もう既に十分飲み過ぎなのだから、帰った方が良いのだ。


難しいカクテルは出来ない。いろんなモルトが有るわけでもない。でも、歩いて帰れるし、なにより天井が高い。バーテンダーは、多分僕より少し若くて、控えめな優しそうなヤツだ。

「あの安い八百屋知ってます?」
という話になる。

「凄い安いですね。でも、なんかこの前、」
そうそう、ドリアンを置いてたよね。誰が買うんだよあれ。

こんな都心で生まれて育つって、どんな気持ちがするの?

「寂しいですよ。小学校なんて、地元で通ってくる生徒は、全部で 100人ぐらいしか居ないんです。」


昔、社会の授業で習った「ドーナツ化現象」というのは、つまりはこういうことなのだ。長くて危なっかしい階段を下りて、外に出ると雨は上がっていた。バーテンダーは外まで降りて、見送ってくれた。

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