足(たる)を知る

このところ、コンサルティングファームとか、そういう人の話を聞く機会が結構あって、思ったのだが、なんかああいう価値観って自分には合わない。ストレッチ、ストレッチ。前に前に。取り尽くしたら、さらに取り尽くせ。

これって、まったくもって西欧の価値観だと思う。そういうことを続けるのは、実は凄く大変で、それに耐えている自分、みたいなモノにプライドをもっ てやってるというのがよく分かる。一方で、負けた人に与えられるものは何も無くて、「常勝」だけが全ての価値観になっている。それが好きな人に何を言うつ もりもないけれど、見ていて素直に「凄い」とだけは思えない。痛そうだな、と思ってしまう。いや、もはや痛みすら感じないのだろうか。

とにかく、違うな、と思う。


一方で、足(たる)を知る、というような価値観があって、自分はこっちだろと思うのだ。常にアドレナリンを出しながら走り続けているみたいなもの は、一見格好良いのだが、失うものは大きい。なんで、四六時中そんなに自分を騙したり、言い聞かせたりしないといけないんだろうと思う。

人生は、やりたくないことをやるには短すぎる。自分が好きか、キライか、それをよく考えて、できるだけ好きなことをしなきゃいけない。そういう風に思うのだ。


というような話を、いつものバーのマスターとする。

っていうか、マスター、なんで牛乳飲んでるの?まあ、いいけど。

注:稲盛イズムの信者という話ではない。

スーパー・ニッカ

Photo: ニッカ 2005. Sapporo, Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

Photo: "ニッカ" 2005. Sapporo, Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

札幌に行ったときに、必ず行くバーがあった。別に、お洒落だとか、カクテルが旨いとかいうのではなくて、とにかく安い。すすき野の一等地にあるくせに、店内に飾り気は一切無し。メニューの中心は、国産のモルトウイスキー。つまみも簡単なものが中心で、男の独り客がスパルタンにカウンターで飲むといった、かなりいかつい店だ。


さて、この間、久しぶりに行ってみると、扉を開けて入ったは良いが暫く呆然としてしまった。店の名前も、場所も同じなのに、店の中が全然違う。カウンターは夜景をバックに通りに面した側に移され、「止まり木」程度だったテーブル席はきちんと寛げる「テーブル席」に変り、コンクリ打ちっ放しの床は板張りにと、今風に改装されていたのだ。

そして、僕はカウンターの女性のバーテンの前に通された。というか、バーテンが女性だけだ。ちなみに、前の店(?)はバーテンは苦み走ったオヤジだけだった。怪訝な表情を浮かべながら(浮かべたくはなかったが、浮かんでしまっていたはずだ)メニューを繰ると、ダイニングバー並みのフードメニューの充実。前の店では頼んだことがないカクテルが全面に押し出され、メニュー単価は順当に上がっており、なにがなにやら。まずは、オンタップのビールを頼んで気を落ち着けた。ビールはちゃんとしていた。


店がいったいどうなったのか、バーテンに聞いてみた。2年ほど前に全面改装したのだという。なるほど、札幌は2年ぶりで、僕が最後に行った直後に改装されたのだろう。店のスタッフも大幅に入れ替えられて、もう昔の面影はない。バーテンの彼女にしても、改装されてからスタッフだという。少し寂しい気分になったが、それはそれ。以前のカラカラしたピスタチオのあてよりも、新しい店で出てくるカカオの強い生チョコのお通しのほうが、よほど気が利いている。

女性で「酒が好き」という人は、ホントに酒が好きな人が多い、というのが僕の印象なのだが、たまたまこの日僕の前に立った彼女も、「酒が好き」でこの仕事をやっているという。彼女が勧めたのは、この「スーパー・ニッカ」の原酒。つまりブレンド前のシングルモルトで、55.5%。え?、スーパー・ニッカ?という声が聞こえてきそうだが、これは美味しかった。もちろん、高級な味はしない(値段も、とても安いのだ)。でも、筋の良いハウスワインというか、毎日仕事上がりに1杯飲むのに良い、素朴な味がする。酒が好きな人が好きな味。価格は安く、普通には流通していない。やみくもに、高いものを勧めるのではなくて、ちゃんとこういうものを出せるってたいしたものだと感心。店は全然変わったけれど、また新しい歴史がつくられていく。

ニンニクラーメン

Photo: "ニンニクラーメン"

Photo: “ニンニクラーメン” 2004. Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8

ラーメン番組を見るのは好きだが、ラーメンを食べるのはそれほど好きじゃない。ラーメンのスープは飲み干さない、と言えば伝わるだろうか。だから、ラーメンが食べたい、と思うことはほとんど無いのだが、それでも年に数回「ラーメンが食べたいような」気がする時がある。

そんな時は街の中華料理屋に行く。いわゆる、昔ながらのラーメン屋、雑多なメニューが 30種類ぐらい貼りだしてあるような店。お客は、居酒屋代わりに餃子や焼売を食べながら飲んでいる会社員の一団。外出の帰りに寄った親戚同士。閉店間際 に、独り晩飯を食いに来る男。(僕だ)


僕の行く店は、高級中華というわけでは決して無いが、例えばフランチャイズチェーンの中華料理屋なんかに比べると値段はあんまり安くない。街のラーメン屋、という単語から想像される価格よりも 200円高いとか、そんなイメージ。その代わり、材料がちょっと良かったり、量がちょっと多かったりする。

普通のラーメンもあるのだが、あえてニンニクラーメンとかを頼むこともある。めったに食べないし、せっかくだから。出来合のおろしニンニクじゃなく て、ちゃんとみじん切りにしたニンニクがどっと入っていて良心的。スープの味は、ザ・ラーメン屋みたいな加減で、ちょっと浮いてる小口切りのネギが良く合う、そんな味。拘り素材とか、焦がしネギがどうこうとか、そんなアホな話は全然なくて、おばちゃんが「はいよ!、おまたせしました!」と元気よく置いていくニンニクラーメン。食べると少し元気になる。


永くやっている店だから、信用具合みたいなものは、チェーンとは違うし、オヤジの真っ黒中華鍋の出す味は、ホッとする感じ。お客も危ない人が居ないから(深夜の牛丼屋とか、ホント怖い人が居るでしょ)、安心。こういう地縁的な店をぶっつぶして、高効率・マニュアル調理・均質サービス、みたいなバカビジネスモデルの果てが、殺伐とした緊張感につつまれたフランチャイズ餌場みたいなものだとすると、時代はこっち側に揺り戻してる気がする。

今日もお客さん、けっこう入ってるし。