タクシー

Tokyo Sky Tree

Photo: “Tokyo Sky Tree” 2012. Tokyo, Japan, Apple iPhone 4S.

blogのレイアウト崩れをチェックがてら、昔の投稿を読み返している。

「定食屋」というエントリーで僕はあるタクシーに乗っている。一匹狼のタクシー運転手。電子制御された車が嫌いで、カクカクボディーの日産車セドリック・タクシー専用モデル(最終型)に乗っていた。深夜、社内は古色蒼然として、アナログメーターの向こう側に真っ暗の皇居のお堀を見ながら乗っていた。

会社に泊まって、そのまま週末また働いて、晩飯がてら居酒屋に流れた。同僚と二人で、深夜のオフィス街でタクシーが来るのを待っていた。週末のその場所は、タクシーなんて殆ど通らない。暫く待って、最初に通りがかったタクシーを同僚は譲ってくれた。あるいは、それが逆だったら、その運転手との縁は無かったかもしれない。


「一期一会を大事にしたいので、常連客はとらない」という変わった個人タクシーの、僕は3人目の常連になった。それから数年間、深夜にも明け方にも、気持ちよい春の夜も、凍える冬の朝も、何度も迎えに来てもらった。

東京に大雪が降り、法人タクシーが全部逃げてしまった夜も、「必ず行くから待っていて下さい」と言ってくれた。よく来れましたね、と聞くと「冬は常にスタッドレスですから」と答えた。一日積もるか積もらないか、そんな東京の冬で、常にスタッドレスで備えるのは、流石の元陸自。


それから13年、都心に引っ越した僕が、客として彼のタクシーを使うことは、もう殆ど無い。殆どないけれど、その代わり友達になった。彼が今仕事で乗っている車はハイブリッドなトヨタ Saiになっていて、あの拘りは一体どこに行ったんだと思うが、時間は人を頑固にも柔軟にもするのだろう。

去年一年は彼にとってはいろいろ良かった事も、悪かったこともあったようだ。10年以上も付き合いがあると、お互いの人生みたいなものが、積み重なってしまう。僕と干支が同じ運転手は、去年ちょっとした大病をした。それが、快癒した知らせを LINEで受け取って、とても嬉しく思った。

彼は未だタクシーに乗っていて、定食屋は開いていない。

熊のメリークリスマス

Bear's Christmas

Photo: “Bear’s Christmas” 2015. Tokyo, Japan, Apple iPhone 5S.

クリスマスから日付が変わり、ここで最後とタクシーでたどり着いたレストランは、温かくて静かだった。

夜もすっかり更けて、もう明け方の店には、ちょっと遅いクリスマスを祝っている謎のカップルが居る。熊のカップルも座って居る。そして、4軒目か、5軒目ですっかり疲れがまわってきたリーマン達(僕らだ)。それで全部だ。

街は静まりかえって、クリスマスの雰囲気は無くなりつつあるけれど、謎の二人は楽しそうだ。こんな深夜から会っている二人に、どんな事情があるのかは分からない。ただ、静かに話しをしている。


渋谷にこんな場所があるとは思わなかった。西欧のいろんなカワイイを混ぜたようなインテリアは、そのちょっとちぐはぐな感じが、ディズニーランドみたい。

リーマン達は、字面が凄いという理由だけで頼んだスペアリブと、ノリだけで頼んだピザを、ビールで流し込んでいる。何を話したかはもう覚えていない。


そういえば、熊のカップルも、プレゼントを交換してクリスマスをちゃんとお祝いしているよ。

かつて、ここに橋があった

Japanese apricot blossom.

Photo: “Japanese apricot blossom” 2015. Tokyo, Japan, Apple iPhone 6S.

かつて、ここに橋があった、という碑がある。

何年もその前を通っていて、今日初めて足を止めた。それは、今あるものの説明では無くて、かつてあったものの話だ。


誰かが、想いを持って作ったのだろう。しかし、それは覚えられること無く、ただ道ばたに存在している。

我々が日々、何かに自分の存在を刻もうとしていることと、そこに纏わり付く無力感。

「いらないな」と思う。