高知のタヌキ

Photo: 2000. Kochi, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, AGFA-Film

Photo: 2000. Kochi, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, AGFA-Film

ういーーっ。今日も暑いなっ。

なんつーかよぉ、だるくていけねぇや。こう毎日、御天道様の威勢がいいとさ、なーんにもする気が起きないよな。ちょーダルイよな。ん?高知のタヌキのくせに東京訛りだって?

そりゃ、こちとら江戸っ子よ。はるばる、お船に揺られて、南国高知までやってきたのよ。ここの住み心地?

そうさなぁ、ここは風通しもいいし、人通りも多いから結構楽しいよ。俺は、賑やかなのが好きだからな。ところでお前ら何しに来たの?

四万十川を遡りに来た?うぇぶに発表する?まあ、よく分かんねぇけどさ、写真は勘弁してくれよ。今日はラフな格好だからな。おいっ、撮るなと言ってるだろうが!こらっ、てめぇ!!何しやがるっ!(続く)

追伸:今日はとっても寒いので、真夏に撮った暑い感じの写真を載せてみた。

風呂

2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

カポーーン。風呂だ。

清潔なコンクリート製の壁づたいに少し歩くと、夜空が開けている。月明かりの下に、湯煙が上がっている。とくとくと湯船に満ちた湯を、ザーッとこぼしながら浸かる。

友達は既に上がってしまって、僕は一人きりで、湯に身をまかせていた。夜の川は、当たり前のことだけれど、休む素振りもなく、流れ続けていた。一人 きりで、じっと空を見つめると、生きていることの危うさと確かさみたいなものを感じる。微かな照明に誘われて、羽虫が飛んできて、湯船に落ちる。


地上から見る月の大きさというのは、せいぜい5円玉の穴ほどの大きさしかないのをご存じだろうか。もっと大きく感じているのは、実は人の錯覚。月は、人にとって最も親しい、夜の友人。だから、大きく見える。

月は、年々地球から遠ざかっている。45億年前、地球から20,000km、ロッシュ半径のぎりぎり外側に誕生した月は、今日、380,000km の彼方にある。そして、確実に地球から遠ざかり続けている。やがて、夜空に月が見えなくなる日が来る。むろん、人がその時まで存在しているのかは、甚だ疑 問だが。

夜中、カメラを星空に向けて、星空の撮影に挑戦。虫の大群に襲われた。自然の中での撮影というのは、やっぱり難しい、、。

ホテル松葉川温泉

Photo: 2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

Photo: 2000. Shimanto, Japan, Nikon F100, AF Nikkor 35-105mm F3.5-4.5D, Fuji-Film

偶然泊まったホテル松葉川温泉は、さっぱりとして、良いホテルだった。僕たちに用意された部屋は(その日、宿は割と混んでいて、最後の一室だっ た)、三角屋根の形が分かる最上階。優に5メートルはある天井と、ゆったりした内装。山奥のこんな場所に、周囲の風景に似合わないモダンな内装は、東京帰 りの若い建築屋の二代目が、腕試しに設計したような風情だ。

バルコニーに通じるドアを開け、ソファーに足を投げ出すと、ドーッという川の流れの音が、耳に飛び込んできた。少し上流には滝がある。コンクリートで整形された、一直線の滝。


宿の心づくしの夕食が、僕はいたく気に入った。カチカチに冷えたジョッキで生ビールを傾けながら、川魚の佃煮をつつく。松葉川を眺めるレストラン。 広い食卓に、山の食材をふんだんに使った料理が並んだ。品数は多く、どれも、見た目で誤魔化さずに、ちゃんと美味しかった。柔らかく炊かれた蕗には、さっ き川で嗅いだ土の匂いがした。

僕たちに給仕をしてくれた女性は、とてもいい笑顔をしていて、ビールのお代わりを頼むと、恥ずかしそうな微笑みを浮かべた。
「なぁ」
「ん?」
「高知ってさ、綺麗な人多くないか?」
「っていうか、いろいろな意味で魅力的な人、だろ?」
「そうそう、笑顔とかさ、いいんだよね」

静かなレストランで川の瀬を聴きながら、そんな会話をした。