魔女の鍋的食い物

Photo: 2004. Beijing, Mainland China, Sony Cyber-shot U20, 5mm(33mm)/F2.8

Photo: 2004. Beijing, Mainland China, Sony Cyber-shot U20, 5mm(33mm)/F2.8

羊ページ管理者たる者、羊を食べなくてはいかん。


先ほどの油炒飯の店。周りのテーブルを眺めると、皆、仕切りのある鍋でグツグツ何かを煮ている。火鍋ってヤツか。言葉が全く分からないので、あれくれ、あれくれと指さして頼む。2回行って(気に入ったのだ)何となく分かったのだが、この火鍋屋はセミオーダーメイドみたいな仕組みになっている。

まず、基本になる鍋を頼む。そうすると、辛いスープと、そうでも無いスープの二色が入った鍋が来る。中には出汁の素なんだか木っ端くずなんだか分か らない変なものがいろいろ浮いているが、具は入っていないので、適宜具になる肉を選ばなくてはいけない。肉は、1つ頼むと、普通に山盛り 3人前ぐらい出てくるので、知らないで人数分頼むとものすごい量の肉が運ばれてくる。(運ばれてきた)


肉は、牛と羊のいろいろな部位をかなり細かく(30種類以上)選べる。羊脳だって頼める。その次には、野菜(29種類)を頼む。キノコ(13種類ぐ らいある)も別に頼む。ただし、時々「メイヨー」な素材もあるから、全部頼めるわけではない。肉だけ頼んだら、野菜を頼めと、しきりに店員が言う。しゃぶ しゃぶみたいに、もう肉しか食わないとか、そういうのはダメみたいだ、バランスが大事。これらをまとめてぶち込んで、グツグツ煮込むと、「ヘルシーな火鍋 が今 OL に人気です」とかそういう甘っちょろいジャパナイズされた食い物ではなくて、呪われてるとしか思えない、魔女の鍋的食い物ができあがる。おお、レゲエスタ イル。


最後に、つけだれを注文する。つけだれは、大根おろしでさっぱりと、、ってこれは、おろしニンニクじゃないか!大根おろしの代わりに、なんかの油の 中にたっぷりおろしニンニクが投入された、強烈なつけだれ。これに、グツグツ煮込んだ羊肉をごっそり突っ込んで、焼けるような白乾(中国焼酎)蒙古王で飲 み下すと、なんか変な脳波が出る。値段は恐ろしく安くて、「机一杯」頼んでも 2,000円しない。酒をボトル一本頼んで、3,000円。

この火鍋は下品に煮込んで、まぜて、飲み下すと、旨い。中国いいなぁ、と白乾に酔いながら思う。

旧市街

Photo: 2004. Beijing, Mainland China, Sony Cyber-shot U20, 5mm(33mm)/F2.8

Photo: 2004. Beijing, Mainland China, Sony Cyber-shot U20, 5mm(33mm)/F2.8

朝、タクシーで旧市街の方に向かう。一人後部座席から、薄曇りの天安門広場を眺めている。車道は広く、よく舗装されていて、片側 4車線以上ある。半世紀前、祖父は占領者としてこの土地を踏んだ。彼は軍人だった。そして、50年以上が流れ、僕はビジネスという立場でここに居る。歴史の流れは、こんなにも早いものか。


タクシーを降りて商店街の方に。昨夜は見えなかった細い路地を曲がる。高級レストランや土産物屋が並び、外国人の姿も見える表通りから、だんだん地元の人しか居ない、もう一つの中国が見えてきた。揚げパンを売る屋台、簡易宿泊所の待合いから外を眺めるオバチャン。僕は、上着のポケットに両手を突っ込んで、ゆっくり歩く。

中国には 56もの民族が居て、僕みたいなアジア系がうろうろしていても、そんなに目立たない。人々は、僕を気にするでも無く、気にしないでもなく、通り過ぎ、追い越していく。見たことがあるような、無いような。昭和の昔の日本の風景のようなその路地に、ふと胸に迫る懐かしさを感じた。あるいは、それはメディアで見ていた「中国」という光景に対する、極めて今日的な既視感だったのかもしれない。


土曜の朝の古びた路地には、朝食を買い求める人が多い。ピザ生地のようなパンや、ひねった揚げパンなどが売られていて、5元も出すと山のように買える。小さな定食屋も店をあけていて、だいたい 1食 3元(36円)、口開けの客が入っていく。1元ショップとでも言うのか、1元均一の雑貨屋を覗くと、埃っぽい棚に、ゴミとしか思えないような汚い人形や、 ピーラーのような安っぽい調理器具、怪しい口紅などが雑然と並べられていた。受けねらいの土産にもはばかられる、そんな品物。何も買わずに店を出て、雑踏に戻る。

目的地は無く、地図も持っていない。自分がどこにいてどこまで行くのか、それは分からなくて、もうこのぐらいにしようかと、途中で振り向いた。歩いてきた道には、普通の週末の朝の景色。ここは、欲望のカタマリのような、今まで見てきた中国からは少し離れた場所だった。

注:JAL のグランドホステスにニーハオと言われるような人間なのであまり目立たない。

小肥羊の炒飯

Photo: 2004. Beijing, Mainland China, Sony Cyber-shot U20, 5mm(33mm)/F2.8

Photo: 2004. Beijing, Mainland China, Sony Cyber-shot U20, 5mm(33mm)/F2.8

北京、金持ち街から少し奥に入ると、再開発に取り残された一角に出た。下水のふたから何かが漏れ、野菜くずだのガラクタだのが路肩に積まれている。そのひときわ汚い裏路地の一番奥にある「小肥羊」。

中にはいると、街場の美味い食堂の喧噪。当たったな、と思う。


軽い気持ちで頼んだ炒飯に絶句した、というより、叫んだ。「うめーーーっ!」6元(72円)で山盛りが出てきた。具は、卵と葱が少し。全然豪華じゃないけど、ホント美味い。

炒飯はパラパラが美味しいとか、そんな今までの概念が覆る。まず全然パラパラじゃない。油だ、油でヌルヌル、でも全くしつこくない。日本には出汁を 注いだ茶漬けがあるように、中国には油で炒めた飯がある。そういう位置づけなんだろうか。油でサラサラ行くような、もう幾らでも食べられる。冷めても、不 思議とべたつかない。文字通り、「炒飯は飲み物」だった。

で、なにやらこれってチェーン店みたいなんだが(全国連鎖と書いてある)、それでこの味!?あるいは、王将でたまにあるここだけ美味い店みたいなものなのか?中国恐るべし。

注:中国のレストラン(と食堂)では執拗に炒飯を頼み続けたが、ここのが一番うまかった。そして、一番安かった。滞在中に再訪したところ、やはり美味かった。