ビリヤニ as a service.

Photo: “Biriyani @Eric South.”

Photo: “Biriyani @Eric South.” 2021. Tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

ビリヤニを食べていない。家では二度と作らない、と誓っているだけに、作る気は無い。Erick Southの通販の噂を聞く。どうもカレーだけで無く、冷凍のビリヤニもラインナップにあるらしい。

頼んでみると発送は早いし、サイトも良くてきている。良く出来ているというのは、良くテストされている、という事だ。クロネコヤマトが既定の発送業者なのも、安心出来る。

実際、エリックサウスで食べたことは1,2回しかない。印象は悪くなかった。東京八重洲の地下街の店で、席はごくごく狭いのだが、それは仕方ない。ダバインディアのように、味に凄く感心した、という事は無かった気がする。それはある程度、ビリヤニ経験があったためかもしれない。


ビリヤニは、一式がトレーに入って冷凍されている、まるごとレンジアップすれば良いだけでお手軽。タマネギがちゃんと紫タマネギだし、バスマティライスだし、レンジから漂ってくる香はまごう事なきインド料理屋のそれだ。これはもう、ビリヤニ as a service.。

一緒に買ったカレーの類も手軽で良かった。湯煎しろと書いてあるが、平べったく冷凍されているので、パッケージの上からお湯をかけて中身を器に出し、レンジしてしまえば問題無い。僕的にインドの味噌汁だと思っているダールなど、とても良い。ただ、マトンは自分で作ったものと、正直そんなに違わない気がしたのは贔屓目に過ぎるか。

で、その後たたき売られていた和牛の牛すじでカレーをつくってみたり。安いし、美味しい。片付けは圧倒的に面倒だが。

ビリヤニ原理主義

Photo: “Mutton biryani at SAHIFA KEBAB & BIRYANI in Roppongi.”

Photo: “Mutton biryani at SAHIFA KEBAB & BIRYANI.” 2019. Tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

東京で一番うまいビリヤニが有る、そう言われてインド人に連れてこられた。それが、この店の最初だ。

六本木駅から、ミッドタウンに向かう道すがら、こんな所にインド料理屋が有るなんて思いもよらない、そんな場所にある。

ビリヤニは、恐ろしく面倒な料理で(一度自分で作ってみて、二度と作らないと心に誓った)、出す曜日が限られる店や予約限定の店、そもそもビリヤニをやっていない店も多い。しかし、この店の名物はビリヤニであり、予約無しでいつでも注文することができる。選択肢はチキン、マトン、ベジタリアン。このうち、マトンが我々のビリヤニ像に対する期待値に最も近い。量は、とても多いので一人一皿は止めた方がいい。前菜は控えめに。ビールは1杯ぐらいにしておきたい。


出てきたビリヤニの見た目は、これと言って特徴が有るわけではなく、生タマネギが鎮座してぶっきらぼうな感じ。でも、一口食えば分かる。この店のビリヤニは、日本の他の店で食べるのと全然違う。誰かが言った感想、「土食ってるみたい」というのが、多分一番核心に触れている。

口に含んだ、一塊のビリヤニから、とんでもない量の情報が流れ込んでくる。基調を成しているのは、ホールのカルダモン。それに、シナモンを先頭に多種のスパイスが折り重なって、混ざり合う。融け合ってはいない、混ざっている。食べものから新しい情報を摂取する、という感覚に直面したとき、これが果たして食べものなのか、飢えを満たすために食べているものなのか、より高位の何かなのか判然としない感覚に包まれる。

美味いの?と訊かれて、美味しいです、と即答することは難しい。なぜなら、美味い、不味いという今までの尺度には絶対に並ばないタイプの食べものなのだ。凄い、というのが素直に出てくる感想。


それにしても、このビリヤニというものは、食べられる部分と食べられない部分(シナモンの木とか)が混在していて、とても食べ辛い、何故だ。と思えば、インド人が実演する手で食べるやり方。なるほど、指で触ると可食部と不可食部がよく分かり、口に運ぶ前により分ける事ができる訳か。そして、下に敷いてあるバナナの葉は、その上で指を使って食べるときに、飯をうまく滑らせる効果が有るのだという。

量が多いので用心して頼んだマトンビリヤニ1皿ではどうにも足りない、で、ベジタリアンを追加。その味は、単にマトンビリヤニから肉を抜いた、という代物では無かった。野菜とスパイスとギーで、ゼロから構築された全く別の料理になっている。その上で、肉が使われていない穏やかな味。驚くことに、こっちの方が「美味しい」という概念には近い気がする。

とにかくこの料理については、未知な事が圧倒的に多い。そしてビリヤニがある種の中毒的な食べもので有ることは、こうして平成最後の記事を心穏やかに書いているにも関わらず、胃の腑からビリヤニを求める声がする事からも、明らかだ。