データーセンターでアンラッキング。僕にとっては、ちょっと昔みたいで心躍る仕事だ。作業開始から1時間。ギックリ腰持ちにはあまり実質的な出番は無いので、隅っこでSFPの仕分けなどをして、大物の作業を眺めていると、なんか1つ外れない。全ての作業はそこでスタックした。
SANスイッチをラックに固定しているネジが外れない、現場あるある。ソフトウェア畑でテックな、物理作業を舐めてる人は、時間の見積を誤る。物理作業は最低でも想定の2倍の時間を見積もるべきで、3倍でも良いかもしれない。
これは、帰れなくなるヤツだ。もちろん、工業部材なのだから、EIAの規格でスケールは決まっている。でもそういう話じゃ無いのだ。日本の会社がガチガチに作ったラックと、アメリカ大陸で育まれたラック金具は、その根源が違うのだ。
この前に、機器をここにラックした誰かが、その時地雷を埋めていった。適度に斜めにねじ込まれたネジは、頑として回ろうとしなかった。代わる代わる、頑張ってみる。そして半時間後、ネジ山は、完全に舐められた。(この絶望感は、タイムリミットの有る現地作業をしたことがある人でないと、分からない)
僕は、永年の友人にLINE電話をかける。(公衆回線の電波は遮蔽されている)元CE(データセンターのエンジニア)で、現ベンチャーのCEOの友人はいろいろなアドバイスをくれた。その通りに、ドライバーの頭をひっぱたき、糸鋸を引き、いろいろやってみるがダメだ。ネジをすっかりなめてしまった所で、通りがかりのプロが登場。後頭部にファンが付いたヘルメットを装備した、間違いないガチ勢。
プロのやり方は、元CEの友達に教わったのと基本的には同じだった。ただ、モメンタムが想定と10倍ぐらい違う。「ドライバーのヘッドを叩く」というのは、友人の言葉から想像した力加減とは完全に違っていた。まるで家を建てるんじゃないかと思うような力加減・速度・音響で、インパクトドライバを叩き込む。ドライバーのヘッドで、何か彫刻してる?そう思うような、そんな仕事なのだ。
バキッ、と音がして1本目のネジが砕けるように外れる。着手から3分も経っていない。
こういう技能に金を払う社会じゃ無いとダメなのだ。こういう日本のインフラを支えている職人の待遇をきちんとしないとダメなのだ。こういう技術を、ちゃんと受け継がないとダメなんだ。こういう事は、世界のどこでも期待出来るわけじゃない。日本で当たり前なこの技術は、そうは無い。
淡々と、きっちりネジをぶっ壊していったおっちゃんの仕事は、とても良かった。これで帰れる、感謝しか無い。