「沖縄では、飲んだ後ステーキでシメる」は幻から始まった

Photo: "Jack's Steak House."

Photo: “Jack’s Steak House.” 2019. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, PROVIA filter

「沖縄の人は、やっぱり飲んだ後ステーキで締めるんですか?」

「いやー、それはないですね。夜にそんなもの食べられないですよ」

「え。。」

那覇の地元民向けお洒落居酒屋。マスターがいろいろ教えてくれるので、今回もカウンターに陣取っている。この後、何でシメるのか、やはりステーキに行くべきなのか。背中を押してもらうつもりの若者の質問は、しかし全否定で返された。

「もともと、規制があって0時過ぎはお酒を出して営業することが出来なかったんですよ。でも、深夜にアメリカの兵隊さんに食事を出す必要があったので、ステーキ屋は0時を過ぎても営業が許されたんです。」

あー、確かにAサインを掲げるステーキハウスは多い印象。

「で、沖縄の人も遅くまで飲みたいときは、ステーキの店に行って、みんなでステーキを一皿注文して、それをツマミにお酒を飲んだんです。」

そう、別に夜中に好きでステーキを食べていたわけでは無いし、それをシメにしていた訳でもないのだ。


「でも、そういう歴史を知らない若い人達がテレビを見て、ああ沖縄では夜にステーキを食べるんだと。で肉を食べに行き始めた、っていう感じでしょうかね。」

シメのステーキ。それは、テレビで「秘密のケンミンSHOW」を見た沖縄の若者が作った、幻の伝説。そしてそれが、今や現実になってしまった。時代は、メディアが描いた世界をなぞるのだ。じゃあ、我々も幻想を現実化しよう。ステーキハウスいっぱい有るけど、どこに行きましょう。

「私はジャッキー派なんで、是非ジャッキーに行ってください」

会話に入ってきた店員の女子の、確信に満ちたアドバイスによって、ジャッキーに決定。あの謎のスープも、眩しすぎる照明も、生暖かい肉も、僕にとっては何一つ好きな感じがしなかったのだけれど、確かにあそこにしか無い、空気が有る。

「丁度、今なら時間もピークを過ぎて、青信号じゃないですかね」

という声に送り出されて、我々はジャッキー ステーキハウスに向かった。
(続く)

美マヤー

Photo: "Beautiful Mayaa (Okinawa cat)."

Photo: “Beautiful Mayaa (Okinawa cat).” 2019. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, PROVIA filter

とても綺麗な猫が居た。美マヤー。(マヤー = 猫)

猫だまりの猫たちは、まだ僕を警戒して遠くに取り巻いているが、彼女(多分)だけは、悠然と毛繕いをしている。そして、時折鋭い野良の目で僕を見る。

暮れていく空は、めまぐるしく色を変え、遠巻きにしていた他の猫たちも、だんだん近づいてくる。自分の日常から遠く離れた島で、この生きものたちと一緒にいるこの時間。

夏と違って、ずいぶん冷たい風が吹き付けるこの場所には、生まれたばかりの子猫を連れた母親の姿もある。早く春になって、楽に過ごせるようになったらいいね。

シャングリラ で君といつまでも

Photo: “Sherry & tonic.”

Photo: “Sherry & tonic.” 2017. Tokyo, Japan, Apple iPhone 6S.

ピアノで奏でられるYMO「東風」が流れるバーで、ろくでもない話をしている。もう、この業界に居るのは限界かもしれない。毎度のこと、そんな話をしている。

高い値段の店で、自分の金で飲みに来ている人間が、一体どれ程いるのかは分からない。幸せそうな、あるいは、幸せそうに偽った微笑みと、笑い声がさざ波のように、高い天井に響いている。

こういう所にくると、幸せそうな人しか居ない。だから、たまにはこんな所に来たいんです、と後輩は言った。確かに、そうかもしれない。愚痴を言いながら、地上にへばりついて飲むのもよいけれど、こうして、根っこを抜かれて上に来てしまえば、あまり文句も言いたくなくなるものだ。


素晴らしいフォルムの角氷が入った、シェリーのトニックの味は、いつものバーに比べたらたいしたものではなかったけれど、高い天井とその向こうに広がっている都心の夜景の光が融けて、見た目は最高なのだった。

ピアノにはいつの間にか歌が付いて、ビリージョエルを歌っている。「のし上がってやるぜ」みたいな曲達は、結構この中途半端で新しい場所に合っている気がする。そして次の曲は、シャングリラ29階でまさかの加山雄三「君といつまでも」。

良い曲だとは思うが、ここでそれはやめろ。