森の中の径を歩いている。
何かの気配を感じて足許を見ると、トカゲが居た、ちょっと驚く。折れた木の枝の側ら、アスファルトの上。径を通り過ぎる自転車に轢かれはしまいか、でも、トカゲは動かなくて、死んでいるようだった。
そのまま少し歩いて、立ち止まって、戻って、そうしてトカゲの体を径の外にほっぽり出した。ひっくり返った腹からはワタが飛び出していた。
トカゲはヘビイチゴが赤い実をつける脇に、冷たくうずくまった。
写真と紀行文
森の中の径を歩いている。
何かの気配を感じて足許を見ると、トカゲが居た、ちょっと驚く。折れた木の枝の側ら、アスファルトの上。径を通り過ぎる自転車に轢かれはしまいか、でも、トカゲは動かなくて、死んでいるようだった。
そのまま少し歩いて、立ち止まって、戻って、そうしてトカゲの体を径の外にほっぽり出した。ひっくり返った腹からはワタが飛び出していた。
トカゲはヘビイチゴが赤い実をつける脇に、冷たくうずくまった。
その店を見つけたとき、あまり期待はしていなかった。腹が減ったので、用事が済んでから街の裏手の方を歩いた。そうして、見つけた。
都心でよく見かける、フランチャイズの洋食店。僕のイメージでは、油っぽい揚げ物中心で、店を出てから少しもたれる感じ。値段は、普通ぐらい。なにせ土地勘もないし、それでも良いやと思った。何よりお腹が空いたし、ちょっとビールくらい飲みたい気分だったのだ。
店は空いていて、僕の他には先客が一人いるだけだった。平日の 4時という中途半端な時間なのだから、仕方がない。座ってから、ちょっと失敗したなと思う。うっかり、フライヤーの前に座ってしまった。でも、油の匂いがあまりしない。揚げ物を出す店なのに、カウンターはベタベタしていない。
メニューを眺める。僕は、なんというか今日は海老フライが食べたかった。そして、メンチカツもいいなと思った。もちろん、それを盛り合わせたメニューは有ったのだが、なんというかメンチカツと海老フライは一番高い組み合わせじゃないか。(1250円だけど)でも、こういうので変に妥協すると、後で自分でメンチカツを作る羽目になったりするので、素直に食べたいモノを頼むことにした。
ビール頼むと、キリンかアサヒかを聞かれる。アサヒはあまり飲めないので、聞いてもらえると助かる。450円だけど、柿の種も付いてきた。フロアーをやっているのが奥さんで、厨房が多分旦那さんなのだろう。息が合っている。備え付けの雑誌を手にとって横目で見ながら、店主の作業を見る。
メンチカツは挽肉を合わせた材料を手で丸めるところからつくっている。へぇ、と思って見ていると、海老もパン粉を付けるところからだ。なんか凄くちゃんとしている。よくよく見れば、厨房のステインレスは磨かれてぴかぴかしているし、作業台の上は綺麗に片付いている。海老とメンチを油の中に放り込むと、白髪の店主は、キリッと背筋を伸ばして、フライヤーの中を凝視している。これって、もしかして、きっと、うまいはず。ビールをゆっくり飲みながら、揚げ揚がるのを待つ。
だいぶ時間がたって、お待たせしました、と皿が置かれる。
メンチカツはとても大きく、しっかり揚げられている。海老フライはちゃんと真っ直ぐに伸びていて、千切りキャベツとタルタルソースが添えられている。高価な一品ではない、でも、綺麗だなと思う。僕はまだビールを飲んでいたから、店主は
「ご飯は今でいいですか?」
とちゃんと聞いてくれる。頷くと、ご飯と一緒に豚汁も出てきた。豚肉はあんまり入ってないけど、豚の出汁が感じられておいしい。
タルタルソースをからめて、海老にかじりつく。もちろん凄く上等の素材を吟味しました、というものじゃない。けれど、衣も良く付いてカラリと揚がっている。ビールを飲む、美味しい。メンチカツも、きっちり揚がって、ソースをダラダラかけて食べる。良く炊けたご飯に、ソースと牛脂の甘さがよく合う。いつもの倍ぐらいの時間をかけて、ゆっくり食べる。
カウンターの横に座っていた客が帰って、結局、僕だけになってしまった。手の空いた夫婦は、店の片隅に置かれた、小さなポータブルテレビを静かに観ている。お腹が空いて、それを満腹にしてもらうことの嬉しさとか、感謝みたいな気持ちをちょっと感じる。都心の裏通りの店で、こうやって夫婦できちんと毎日ご飯をつくっている二人が、とても偉いなと思った。
CSに漁師町ぶらりという番組がある。おっさんが一人、漁師町をただぶらぶらするという凄い番組だ。最初に見たときはかなり腹が立ったが、最近は気に入ってみている。
この番組の凄いところは、あのテレビ東京が確立した「旅番組の様式美」というものをことごとく無視している点にある。つまり、ちょっと旬の過ぎた芸能人が、有名どころの観光地を訪れ、地元の人と交流しながら、誰でも知ってる豆知識や、意味のないお買い得情報を仕入れ、偶然開かれている祭り(または朝 市)を見学し、地元の名物料理に舌鼓を打ち、露天風呂に浸かって、あるいはちょっとしたお土産を買ったりする、というモデルだ。
漁師町ぶらりは、これをことごとく無視する。
まず、レポーターはよく知らないおっさんだ。何かものを書いているようだが、少なくとも芸能人ではない。訪れるのは、観光地ではなくて漁港。だいたいは、まったくどこにあるのか想像も付かない小さな漁港に行く。で、おっさんは魚とか漁にはやたら詳しくて、別に地元の人に聞いたりしないでも「ああ、これはアカマンボウ」とか分かってしまう。漁港の食堂で飯を食ったりはするが、名物というよりも、煮付けが好きという理由で適当に魚の煮付けを食っていたりする。当然、何の脈絡もなく行っているので、祭りもなにも完全にフツーの漁港の日常である。恐ろしいことに、旅番組の必須事項である、「温泉」にも入らない。
しかし、茹で蛸加工工場とか、遠洋漁業の冷凍船の荷揚げ場とか、ちょっと想像の付かない渋い現場に入っていったりするのが楽しいので見ている。アフリカで採れた蛸が、冷凍ハン・ソロみたいになって加工を待っている光景は、なかなか戦慄するものがあった。
さて、この番組なんとなくもう20回ぐらい続いているようなのだが、あんまりお便りとかは来ていないみたいだ。おっさんの第一印象が怖そうなのも、 ちょっと影響している気がする。なので、今ならお便りを出した人全員に、サイン入りのパンフレットがプレゼントされるらしい。そういうあたりも、この番組が気に入っている理由なのだ。