Photo: "三太郎" 2006. Kagawa, Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX
腹が減っていた。
朝から何も食べていなかった、いや、正確に言えば、買い置きのオレンジジュースを飲んだきりだ。
朝起きてカーテンを開けると天気が良かったので、ホテルの部屋から見える港に行って、船に乗ってみた。あずきじま、と昨日まで読んでいた小豆島へ。港で、何か食べればいい、とその時は思っていた。
フェリーに乗ると、直ぐにデッキに上がって、遠ざかる高松を見送った。もうすぐ秋の気候だというのに、太陽が暑い。
小豆島に港は幾つもあるが、結構小さい部類の港に着いてしまった。農協の直売所と、土産物屋、フェリーの切符売り場、駐車場、ガソリンスタンド。そ れで全部。唯一あった怪しげな定食屋は「本日休業」の札が下がっていた。腹が減った。どこか街まで行けば、なにか食べるモノがあるだろうか。スタンドで、 アクエリアスのペットボトルを買った。水分だけは無いとまずい。しかし、まさかそれから数時間、本当になにも食べられないとは思わなかった。
島を歩き回って、結局午後 4時になってしまった。何か食べたい。何か、とはいっても、結局、うどんなのだ。香川にはうどん屋しかない、とは言わないけれど、それはそれで間違いが少 ないのだ。一時間に 2本のバスに乗って、なんとか少し大きな港にたどり着くと、ついに一軒の飲食店を発見した。うどん屋だ。もう、このさい、うどん屋で良い。
入り口の脇に自販機が置かれた、店の見た目はいけてない。ぜんぜんいけてない。中に入っても、全然いけてない。だぼシャツのオヤジが 1人と、オバチャンが 2人。オバチャンは、なにやら天ぷらを揚げている。
丁度、障子の張り替えをする業者が入っていて、店の中はバタバタしている。嫌な予感がする、うまいわけがない。先客は一人。数時間前にバスの運転手 に行き先を聞いていた、多分北欧系のガイジン女性。所在なげに、注文が出来上がるのを待っている。多分、天ぷらうどんを頼んだのは彼女だろう。
天ぷらうどんは、えらい高いので(なんとなく香川のうどん価格に慣れていたので、500円オーバーは高く感じるのだ)、安い釜玉にする。それでも香 川で見た中では、結構高めの値付けで嫌な予感がする。観光地にありがちな、トラップだろうか。出来上がるのを待っていると、白いゴム長を履いた、スーパー の精肉部の従業員といった風情のおっさんがやってきて、大きなビニール袋一杯のウドンを仕入れていった。なるほど、自家製麺を、どこかに売っているのだ。 少しは、期待が持てるか。
釜玉うどんは、先客であるスウェーデンの(憶測)彼女よりも早く出てきた。うどん醤油も一緒に出てきた。なるほど、うどん専用の醤油があるのか。天かすもツボに入って付いてきた。ショウガと葱も付いてきた。結構、ちゃんとしてる。
そして、出てきた釜玉は相当うまかった。うどんの評価方法について、僕は詳しくはないが、うどんのエッジがえらく立っているし、色もやけに良い。小 麦の香りがする。出汁の味のきいたうどん醤油もなかなか。これが地元の実力なのか、それとも腹が減りすぎていたせいだろうか。あっという間に食べて、終 わった。
そして、フェリー乗り場に向かった。