ハワイ、出発前のホテルで

Waimanalo Beach Park

Photo: "Waimanalo Beach Park " 2010. Waimanalo HI U.S., Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

そして、結局ハワイでは文章を書くことはできなかった。出発の準備を全部してしまって、初めて、iPhoneで書いている。

潮騒と、人口の滝の水音、車の喧噪、沢山の鳥の声、そういうものが混じり合って、部屋に吹き込んでくる。

朝、6時50分。西の空にはまだ月が出ている。ホテルのプールを従業員が掃除し、早出の観光客がテラスで食事をしているのが見える。こうして僕が帰った後も、観光地の日常が、飽くことなく繰り返される。僕らにとっての非日常が、ハワイの日々の営みで、それがずっと続いていくことを思うと、少し気が遠くなる。


小さなカノコバトが、餌を求めて勇敢に観光客のテーブルの下を行き来するハワイ。初めての外国、初めてのアメリカ旅行の途中で、十数年前に来たときよりも、各段に沢山の物を見ることが出来た。ただ、ガイコクへの驚き、という点ではこの土地自体に対してはそれほどの事もなかったかもしれない。

むしろ、徹底的に日本語化が進んだ食事のメニューや、整備の進んだモール、文字通り街の交差点に一軒ずつ有るのではないかと思うABCストア、すっかり綺麗になった街をいく車。アメリカというよりもハワイというテーマパークのような、そういったものに驚かされた。


そういう意味で、正直、ワイキキはでっかい宮崎だったが、そこから少し離れた海岸や、ビーチや、峻険な死火山は、太平洋の真ん中に浮かぶ島を実感させた。十年前、そうしたものを目にしても、本当の意味では目に入らなかったのではないかと思う。

あるいは、今回ほど人の赤ん坊と一緒に長く過ごした事はなくて、そのことの方が驚きが多かったような気がする。後輩夫婦の 7ヶ月の娘は、とても聞き分けよく、大人たちの無理のあるハワイの日程を一緒にこなしていた。大人と飯を食うよりも、よほど彼女と離乳食のディナーをともにしている方が、楽しいかもしれない。


僕は、なるべく他人の結婚式というものには出ないようにしているが、今回は気がついたら出席することになっていた。そして、いざ、ハワイまで来てしまうと、すっかりそのペースに乗せられて、目の前の事をこなしているうちに、帰る朝がきていた。そんな感じだ。

ちなみに、昨夜、ABCストアで買った最後のビールを片付けながら、ベランダで同行の友人に、自分もハワイで挙式をする?と聞いて返ってきた答えはNO!

苔の島

Island

Photo: "Island" 2010. Kamakura, Japan, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA), cRAW

写真を撮るにあたり、やはり「好物」というものがある。苔はかなりの好物であって、ついつい目が行ってしまう。

人混みで一杯の鎌倉から電車を一駅乗って、北鎌倉。駅の直ぐ横にある円覚寺はとても静かで、ゆっくり歩くのにいい。


境内のずっと奥、黄梅院の庭は僕的な好物にぴったりはまる「上等な」苔だらけ。中でも目を引いたのは、この無人島みたいな景色。苔の波間に、島と椰子の木。

そういえば、この円覚寺がイサム・ノグチの父、野口米次郎が滞在していた場所であることを、僕は最近になって知った。

雨のチャイナタウン

Rainy china town

Photo: "Rainy china town" 2010. Kuala Lumpur(KL), Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

僕は、どこかに旅行に行っても、お土産というものはほとんど買わない。特に、自分のための記念品的な土産というものは、まったく買わない。しかし、仕事で渡航すればある程度の義理もあるわけで、チャイナタウン近くの怪しいショッピングモールで(秋葉原のラジオ館が土産物屋になったような雰囲気、といえば通じる人には通じるだろうか)たいして味には期待できない、中国製のマレーシア土産のお菓子などをさんざん買って(それでも、空港で買うのに比べたら、ずいぶん安い)、晩ご飯のためにいよいよチャイナタウンに行ってみるかと、モールを出たところで、南国の夕方の雨につかまった。


カラカラに渇いたコンクリートが、生暖かい雨を吸い込む。皆、あまり慌ててはいない。こんな雨は、ここでは多分良く降るのだ。歩道の脇に掘られた、驚くほど深い水抜き用の水路は、深さが一メートル近くもある。子供が落ちたら、とは思うが、この溝を埋めるような大雨がこの街を襲う事が、雨期にはあるのだろう。

首から提げているカメラは酷く濡れた。本体は一応の防水が施されているはずだが、それにしても、あまりレンズを濡らしたくは無い。近場の、本屋とドラッグストアが合体したような店に寄って、傘を買う。今だけ使うにしては少ししっかりしすぎているし、少し高い。雨の日の本屋の匂いは、日本と同じだ。リノリウムの床が、キュッと鳴る。


チャイナタウン入り口の交差点。夕暮れと雨が、景色を作っている。喧噪が雨音に静まる。横浜中華街の関帝廟と同じように、ここにもやはり関帝廟がある。門は閉ざされ、人は誰も居ない。良くできたルイビトンや、良くできたプラダを並べる露天が、奥へと続いている。

いままで仕事で過ごしてきた、日本で言えば六本木ヒルズあたりのすかしきった場所とは違って、ここには生活の匂いがする。専門学校生だろうか、若い女の子達が、いそいそとビルに吸い込まれていく。