台湾の人形劇団

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

指人形が、人形師の手から飛んだ。少女の視線が釘付けになる。艶やかな衣装を纏った人形達が、名人の手の上で、踊り、歌い、そして空を、飛んだ。

コンマ数秒後、人形は操り手の指に、寸分の狂いもなく戻る。宙を舞う人形に息を飲んだ子供たちから、歓声が上がった。


ここ台湾に於いて、人形劇の芸術としての地位は高い。人形劇専門のテーマパークのような場所があり、そこには大人から子供まで、幅広い層のお客が訪 れる。写真の中で人形を操っているのは、その人形劇公園(?博物館ではない、死んだ文化ではないからだ)の主宰を勤め、そして台湾の人形師の最高峰にある 鍾任壁氏。彼は、かつての国民党総統の前でも演じたという。


鍾さんの演じる人形劇の素晴らしさは、こういったものに全く興味の無いはずの、僕を感動させた。それは、人形師の卓越した技と表現力だけによるので はない。見学に来た子供たちの前で、心から楽しそうに演じる人形師。そして、時には息を飲んだり、歓声を上げたりして喜ぶ子供達。みんな真剣で、そして楽 しそうだった。そして、僕も楽しかった。

そんなことに、心を動かされたのだった。

East China Sea

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

ここに掲載する一連の写真は、僕がまだ学生の時に撮ったものだ。

1995年晩夏。僕は台湾に渡った。おりしも、台湾初の総統選挙や、沖縄のレイプ事件に端を発する、日米安全保障条約に関する議論などに、大きな関心が寄せられていた時期。歴史がつくられていく瞬間にいるのだ、という気持ち。

台北までは、那覇からジェット機で 1時間程度。沈む夕日と追いかけっこになる。ボーイング 737 の窓から写す。夕日を受けて、海が飴色に輝く。

台北市内

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. taiwan, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

台北市内の裏路地。

市内は、いかにもアジアの下町を感じさせる雑居ビルが建つ。下は商店で、上の階に人が住んでいるといった感じ。台湾は日本と同じ島国で、山地も多い ため、必然的に都市の住宅事情は過密になる。台北市内の道路事情も東京と似たようなもので、朝夕の通勤ラッシュに巻き込まれると、全く車が動かなくなって しまう。

看板は漢字なので(英語はない)、なんとなく意味は分かる。見た目になんとなくゴミゴミしているのは、日本と同じで電線が地上に露出しているせいだろうか。

台湾というと、Acerなどコンピュータのコンポーネントを生産する企業がひしめく、アジアのハイテク下請け工場地帯のようなイメージがあるが、街 を歩いている限りでは、ハイテク製品は見かけない。せいぜい、半分閉まったようなスポーツ用品店に、ウィルソンのテニス・ラケット(カーボンファイバで作 られるテニス・ラケットは一種のハイテクだ、そして、テニス・ラケットは大半が台湾製だ)を見かけたぐらいだ。大半が、海外輸出に回されているのだろう。


湿った空気や、どことなく緊張感のない風情は、日本と比べて、あまり違和感を感じない。治安の目安になる警官の数も、あまり多くなく、市街地の治安 は良いようだ。もっとも、つい最近まで、ホテルに盗聴器などがあっても当たり前、という国だったそうだから別の意味で怖いかもしれない。