全てはネット通販で買うという信念があるのだが、キーボードを通販で買う度胸はなかった。秋葉原に向かう。雨の降る、蒸し暑い秋葉原で、キーボードの揃えが良いというパーツ屋に行ってみる。開店したばかりの時間帯だったが、店内にはやっぱりちゃんとマニアが居て、高校生か大学生か判然としないが、友達同士で周辺機器を選んだりしている。そういうのはとても良い景色で、受け継がれる何かだな、という気がする。
在宅勤務では、Logicoolのキーボードを使ってきた。今さら、プログラマー御用達の拘りキーボードでもないだろうと思ったのだ。しかし、日がな一日メールを書いていると、面白みのない(社会に適合した)キーボードの打鍵感にイライラしてくる。家なんだから、カチャカチャしたキーボードが打ちたいと思ってしまう。昔、テックパーツのADB(Apple Desktop Busだ。言うまでも無く)のキーボードをMacで愛用していた。カチャカチャ五月蠅かったけれど、コンパクトで値段も手頃、打ち心地がとても良かった。
少し調べてみると、テックパーツのキーボードに使われていたのは、ALPS黒軸と呼ばれたメカニカルスイッチだったようだ。現代で言うと、青軸がそのAPLS黒軸に多分近い。メカニカルスイッチのタイプライターのような(そんなものを使ったことは無いが)、打鍵音と感触には、成果を生んでいる感がある。成果?キーを叩くことが成果だろうか。少なくとも、十分なフィードバックは得られる。もう一つの特徴として、テックパーツのキーボードは、犯罪的に巨大なApple純正の拡張キーボードに比べて、格段にコンパクトだったのだが、そのキーサイズは今で言うロープロファイルに当たるようだ。
要件をまとめると、US配列のテンキー付きフルキーボードでMac/Win両用。ロープロファイルのメカニカルスイッチ青軸。バックライトはホワイトのみで十分。有線と無線両方対応で、Bluetoothの接続先を2-3系統切り替えられればなお良い。他に無駄な機能は不要。
実は、ロープロファイルを選んだ時点で選択肢はあまりない。諸々考慮すると、KeychronのKシリーズが一番希望に近そうだ。ゲーミングPCというような所には縁の無い僕は、全く知らないメーカーだったが、2017年創業の香港の(ほぼ)キーボード専業メーカーだ。最初に行った店にはフルキーボードは展示されて居らず、結局、秋葉原ヨドバシのキーボードコーナーが一番揃いが良くて、目指すモデルを試すことも出来た。在庫もあって、価格は2万円弱。HHKとか、REALFORCEとかの国産ハイエンドに比べると安く感じるが、キーボードばかりは自分に合うものが一番良い買い物だ。
買ったモデルは、キーボードブラケット脚(そういう名前だとは、今まで知らなかった)が付いてこないので、結局手首の角度が辛くなってしまった。パームレストを買ったり(これはLogicoolのものが良かった)、キーボードスタンド脚(ESC Flip Pro、まぁまぁの値段だが、納得出来る品質だった)を追加したりしてどんどん費用がかかっていく、のは予想通り。これらの追加で、ミスタイプは大きく減った。
キータッチは納得して選んでいるので、もちろん文句はない。Bluetoothのホスト側アダプタとの相性がかなりシビアで、Windows機では別途Bluetooth 5.0のレシーバを付けないとうまく動かなかった。リモート会議で打鍵音を拾ってしまうのでは?というのは杞憂で、AfterShokz OpenCommのマイクでは打鍵音は拾わないようだ。バッテリの持ちは悪くなくて、丸一日使っていてもWorking dayは持つ。ただし、オートスリープを切って運用すると、一晩でバッテリー切れになる。だからオートスリープでの使用が原則になるだろう。アニメーションパターンを持つバックライト機能は使わないと思ったが、Bluetooth接続がアクティブになっているかどうか、よく分かるので、結局は便利に使っている。スリープになっているときは、Shiftなどを押して「起こして」やる必要がある。
一日の疲れてきた終わりぐらいに、指が怠いような、そんな気分の時に、小気味よく反応するキーボードは、いささか爽やかに感じる。リターンキーを「ターン」とやるあの心理が、全てのキータッチで得られる、と言うと少し伝わるだろうか。ひんやりした金属筐体も、オレンジ色のアクセントカラーのESCキーも(通常塗色のキートップも同梱)気に入っている。結局、キーボードを気にする人間は、キャリアが何年になっても、キーボードを気にするのだ。