素晴らしいテキサス日本料理 Waza

Waza entrance

Photo: “Waza entrance” 2011. U.S., Apple iPhone 4S.

「あとはー、宿の近くだと、日本食レストラン。鮨と鉄板焼き。」

「それ行きましょう」

「まじか」

僕はiPhoneアプリで周辺のレストラン候補を片っ端から読み上げていた。テキサスのど真ん中で、鮨?

僕たちは、ヒューストンの宇宙センターから市の中心部を抜けて、郊外の宿に戻ろうとしていた。

20代なのに、もう日本食が食べたいのかよ、と一瞬呆れてしまったのだが、彼の意図はそうでは無かった。世界のあちこちで作られている、地元の日本料理、そのとんでもっぷりを楽しむ、それを趣味にしているのだと言う。


WAZA、というのがその店だ。

「技」とはなかなか大きく出ている。Waza Teppanとネオンの灯ったファサードを潜ると、長いエントランスに竹があしらわれ、右手にウェイティングバー、そして奥が長大なカウンターとダイニングという作り。本格的だ。

過剰な竹の醸し出す雰囲気は、完全に上野のパンダ舎である。随所にあしらわれたネオンや、酒樽といったオブジェが、マイアミバイスに於けるオリエンタルなクラブ、といった空気感を醸し出していて、大変に好ましい。


僕たちのテーブルに着いたウェイターは中国人。我々が日本人である事に、かなり動揺していた。

日本人のお客さんをもてなすのは初めてだ、と言う。脚を伸ばせばメキシコ国境にも行けてしまうヒューストンの日本料理店には、観光客も来ないのだろう。この店には、シェフも含めて日本人のスタッフは一人も居ないが、それでも良いかと念を押された。

我々は、鴨を醤油でといたワサビで食べようというのではない。テキサスっ子の解釈した日本食の神髄を、容赦なく供して頂きたい。鮨屋だと言うわりに、枝豆ギョウザなんかもある。ツマミから、鮨から、一通り頼んでみる。


前菜の、蛸の串焼きは衝撃的だった。良くもここまでこまこました脚を集めて串に刺したなという、むしろその技術に感心する。中国の屋台で売ってるサソリの串焼きみたい。考えてみれば、蛸なんて多分食べない人達なのだ。この人達は。

店長のオリジナル料理という土瓶蒸し。ウェイター曰く、これはオリジナルなので、食べ方を説明します。まず、酢橘を絞って、、てこれは日本の伝統料理で、オリジナル料理じゃ無いよ。店長は中国人に、自らの日本料理の知識をだいぶ盛り気味に示しているようだ。

枝豆ギョウザ、もはやこれは日本料理なのか?という気はするが、ちゃんと焼きギョウザなのが日本食として正しい。色も緑で楽しい。


店の料理は、はっきり言って高い。昨日まで食べていた、アンガス肉塊塩焼きとか、山盛りバター浸し海老とか、そういうものに比べたら。これは明らかに、高級店だ。皆、デートで来ている、家族を連れてきている、ここ一番な、そんな感じの客層である。

熱燗、というメニューがあって、いったい元の酒が何かよく分からないが、ビンテージのワインを味わうかのように、オッサンが誇らしげに飲んでいたのが印象的だった。

鮨は普通に美味しかったし、カニカマの握り具合も良かった。テキサスの一角で、日本食頑張ってる。誇らしい夜だった。

ペンギンは暑いと口を開ける

Summer penguin

Photo: “Summer penguin” 2013. Kyoto, Japan, Richo GR.

「アチイ、、アチイヨ。。」
「ダメダ、クチアイテキタ。。ミズ、ミズ」

お前ら、小屋に入れよ、せめて日陰に。

「ミズ、クルハズナンダヨ」
「ココニイタラ、ミズクルンダヨ」


飼育員のねえさんが言うには、今年の夏は暑さでプールの藻の繁殖がシャレにならないらしい。普段は休園日に行われるプール掃除では追いつかないんだという。掃除が終わるまで、ペンギン達は大人しく、水を抜かれたプールの底に立ち尽くしている。掃除機をかけるオカンを見つめる子供のように、日陰に入るわけでもなく、所在なげに。

「南半球に居る鳥ですからね、実際、暑さには結構強いんですよ。でも、ちょっとバテてますね。口開けてますね、早く水を入れないと。。」

暑がっているペンギンは、口を開ける、というのを初めて知った。犬か。

野犬と、チャオプラヤ川と。

Chao Phraya

Photo: “Chao Phraya” 2012. Bangkok, Tahi, Apple iPhone 4S, F2.4/35

アジア、と一言でいっても、やっぱり国によって全然違うんだな、っていうことに改めて気付きはじめている。でも、おおよそ中国系の人々はどこにでも居て、彼らの醸し出す雰囲気とか、匂いとか、そういうものは、国に関係なく普遍的で、強かにいろんな土地に蔓延っている。あ、ここにも中国があるなと、いろんな国のいろんな場所で感じる事が多かった。


でも、ここには、そういう空気は無い。歴史的な背景とか、人種の比率とか、そういう事があるんだろうと思うのだが、ここにはそういう事が無い。タイ、バンコク。ここには、ここだけの空気が満ちている。

朝、ホテルのカーテンを開けると、翡翠色に光るチャオプラヤ川が目に飛び込んでくる。イメージしていた、泥色の川では無い。空と緑を溶かし込んだ、翡翠の色だ。眺めると、高層ホテルの分厚い窓ガラスを通して、外の熱気が額に伝わってくる。渡しの小舟が川を横切って、水上タクシーの長い航跡と交差する。対岸の空き地には、さっきから1匹の「野犬」とおぼしき影が、ひょこひょこと行ったり来たりしている。

ある時、泊まったホテルの窓からの景色を必ず撮る事にしよう、と思った。それで、実践している。色んな窓を見た。熱気も、色も、匂いも、みんな違っていた。


昨夜、空港からホテルへの道すがらさっそくタクシーの横をうろつく噂の「野犬」に、やや恐怖を感じた。恐水病を持っている、と思った方が良いのだろう。間違っても、撫でたくなるような外見はしていないのだが、それにしても、これはちょっと困る。

最近、出国してから必ず、イミグレーションの右手にある検疫コーナーで、行き先の国のパンフレットを貰う事にしている。少し前に、屋台の飯に本気で当たってしまった同僚を目の当たりにして以来、この手の情報はバカに出来ないと思っている。恐水病は、確か、注意事項に書いてあったっけ。

今日は、とても暑い通りを歩く事になりそうだ。「野犬」には、出くわしたくない。