モスの匠味バーガーは美味いのか

Photo: 匠味チーズバーガー、シリアル番号 6 2003. Tokyo, Japan, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

Photo: “匠味チーズバーガー、シリアル番号 6” 2003. Tokyo, Japan, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

デフレ時代にくさびを打ち込む、モスの匠味(たくみ)バーガー。噂は聞くが、喰った奴を見たことがない。それは、本当にうまいのか、レポートしてみよう。

まずスペックから。匠味バーガーは、フランチャイズのファーストフードとしては傍若無人の 580円、牛丼 2杯より高い。ただし、バンズ、パティ、ソースについては匠味専用仕様、調製は選任担当者が行い、提供は専用の陶器皿となる。注意点として、現在、このメ ニューは店舗限定・数量限定(多分 1日 10個)なので、なかなか買えない(らしい)。

限定・選任・専用というキーワードは、かなり僕の心の琴線に触れると言わざるおえない。では、取材班総勢 3名で食べに行ってみましょう。


ターゲット店舗の販売開始時刻は 15:00。我々は近所のラーメン屋で、くそまずい塩ラーメンを食いながら、販売開始を待つ。

15:00、突撃。なんか、レジに行列が出来ている。周りの客も皆、匠味バーガーを頼んでる。調理場に「タクチー」のコールが響く。なるほど、匠味バーガーに更にチーズをトッピングした匠味チーズバーガーもあるのか。じゃあ、それ。そして、15:06 匠味バーガー売り切れ。本当に凄い人気。我々のテーブルには、御待ちくださいの札が 3つ並んでいる。アホっぽい。

10分ぐらい待っていると出てきます。しかも、調製者のサインと日付、シリアルナンバーの入ったカードがついてくる。

結論から言うと、匠味バーガーは美味しかった。まず、ちゃんと大きい。「なんだよ、写真と違うじゃないか?」なんてことはない。大口を開けないと喰 えないので、ガブリと。とにかく、バンズがうまい。甘みを抑えてハンバーガーに合うようになっているそうで、ふっくらしていて美味しいパン屋さんの味がす る。中にはちゃんとソテーしたタマネギがたっぷり挟んであるし、ソースの粗挽きこしょうが芳ばしい。パティは肉汁がきちんと入って、普通にハンバーグとし て通用しそう。

見た目、「かなりでかい」感じで、多そうだと思ったが、むさぼり食って終了。でも、ファーストフードを食べた後の、いやな感じがまったくしない。取材班全員の意見として、「あり。ウマイ」

とっても丁寧につくられていて、普通に美味しいという感想。テイクアウトよりも、できたてを食べるのがお勧め。そんなところで、レポート終了。


さて、匠味バーガーは美味しかったし、580円(チーズは 640円)を払うのはまったく問題ないと思う。というか、次も食べたい。こういう商品が出てくるようになって、それが人気を集めているということに、いろいろ思うところもある。

安いモノ探しに消費者が疲れた、ということもあるのだろう。それにもまして、モノ中心の消費の形態が変わってきたような気がする。単なるモノと金の 交換というのではなくて(そこでは、どれだけ効率よく少ない金でモノを手にするかが鍵なわけだが)、モノを通した関係の中に心地よさを見いだす。あるい は、モノを通して実現する自分のスタイルというものに、金を使うことを心地よいと感じる。モノがあふれたこの時代にあって、一瞬、モノの値段を下げて差別 化するという流れがあったわけだけれど、それが一段落して、モノとサービスを通じて、売り手と顧客との関係の中で差別化をする方向に動きが変わってきてい ると感じる。それは、ともすればバブルの時代となんら変りがないが、もうちょっと洗練されたというか、落ち着いた賢い金の使い方みたいなものが、今回はあ るような気がする。

一方の売る側からすると、人手をかけるのは非効率で悪いこと、という少し前までの考え方から、かけるべきところに人手をかけて、その分のコストを きっちり価格に転嫁しても、それが納得のいくコストパフォーマンスであれば買ってもらえる。調製者のサインと、シリアルナンバーが入ってくる匠味バーガー の価格とその売れ方を見れば、そういうトレンドが間違いなく来ていることが分かる。(あくまでパイロットプログラムの商品だから、分かりやすいようにそう した「シンボル」が入っているのだろう)

コスト削減の大量生産・大量消費はどう考えてもつまらないけれど、匠の時代だったら、それは面白いだろうと、ちょっと希望をもってみたり。


注1:匠味バーガーの販売時間は多分店舗によって異なります。タマネギをソテーしていたり、手間がかかるので、選任の人しかつくれません。きっとその人の シフトとかに合わせられていると思われる。あと、匠味バーガーと匠味チーズバーガー合わせて 10個限定という数え方になっているみたいなので注意。
注2:実際には3日ぐらい家に帰っていない状況で、放浪の末食べているので、その体調で美味しく感じたのだからたいしたもの。

「散歩のとき 何か食べたくなって」

Photo: 2003. 小鰭と鯛の握り Tsukiji, Tokyo, Japan, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105, JPEG.

Photo: 2003. “小鰭と鯛の握り” Tsukiji, Tokyo, Japan, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105, JPEG.

美味しいものについて書かれた、ちょっと昔の本というのは面白い。今の、商業主義にどっぷりひたった、世知辛いグルメ本みたいなものと違う、もっとマニアックで、好きでやってるぞみたいな、そういう感じ。


たとえば、池波正太郎の「散歩のとき 何か食べたくなって」は良い。

池波が若い時分から親しんだ、日本各地の食べ物について、実に楽しそうに書いてある。作者に失礼な気もしてしまって、ここに書いてある店にどんどん 行こうという気分にはならないが、(値段もあまり安い店ではないし、代替りもしているし、、)池波のリズムの良い食物談義は、読んでいるだけで十分楽しい。ちょっと気取って、ふらふら一人でどっか新しい店を開拓に行ってみたくなる。


それにこの本、巻頭についている料理の写真がなんとも格好良い。京都松鮨の川千鳥、みの家の桜鍋、村上開新堂の好事福廬。正確無比な写真というわけではないのだけれど、70年代の色合いというか、その時代の雑踏みたいなものが、そこにはある。

もうちょっと日本が若かった時代の、そういう空気の漂う写真。自分の記憶にあるわけがないのだけれど、最近、そういうものが妙に懐かしく感じる。

注:「散歩のとき 何か食べたくなって」, 池波正太郎, 新潮社, 1981.

タコライス

Photo: tako-rice 2003. Okinawa, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

Photo: "tako-rice" 2003. Okinawa, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

海兵隊が駐屯する沖縄最大の基地、キャンプ・ハンセン。そのゲートがある沖縄本島中部の街、金武。

裏路地に漂う妙な緊張感、じゃれながら歩いている海兵隊員のでかさと目つき。日が陰り始め、あたりの雰囲気はやばめで、ちょっと観光という感じではない。

金武にあるタコライスの発祥と言われる店には、学生の時に行ったきりだ。あいまいな記憶と、ネットで調べただいたいの場所を手がかりにして、なんとか探し当てた。


店内はうす暗く、内装のスカスカ感が日本離れしている。所々破けたグレーのソファーの、うらびれかたが尋常ではない。英語の併記された(というか日本語の併記された)メニュー、ここは 8Mile?みたいな雰囲気が漂っている。

600円でチーズ野菜タコライス(みたいな名前のもの)を頼む。ドンと出てきた皿を見た瞬間、時間との勝負で食べなければ、満腹感に追いつかれて敗北することを知る。飯だけで、2、3合ありそうだ。そういえば、前に来た時は、3人で分けて食べたんじゃなかったか?

タコライスは、ご飯にタコスの具と、レタスと、チーズが乗っかっていて、混ぜて食べると美味しい。しかし、この場合、量が多くて混ぜるのは無理だっ た。口の中で混ぜろということか。ご飯は正しく熱々で(東京の沖縄料理屋では冷めたご飯で出される事が多い)、かき込んで食べる感じ。


山盛りかかっているチェダーチーズは、こってりしていてさすが本場の味。しかしよく見れば、「業務用チェダーチーズ雪印」の段ボール箱。高知の藁葺き屋根のうどん屋で、「やはり本場はうまい」と思った直後に「加ト吉の業務用冷凍ウドン」の段ボール箱を見つけたときと同じ衝撃。

味は悪くない、というか美味しい。一緒に出してくれるケチャップと、サルサをかけると更にぴりっとする。格闘すること数分、山盛りになった飯をようやく食べ終わりそう。自分史上、もっとも腹一杯。ん?

「なに?食べきれない分はもって帰れるの?」