カレー食べ放題

Photo: Curry - free reffils 2010. Tokyo, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

Photo: “Curry – free refills ” 2010. Tokyo, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

その日、僕は昔勤めていた街に、久しぶりに足を向けた。昼には、昔良く行ったトンカツ屋に行こう、と決めていた。朝から仕事をして、昼が近づいてお腹が空いてくるにつれ、独特の衣のトンカツと、定食に付いてくる、ちょっと変わった漬け物の姿が、浮かんできた。昼、部屋ををそそくさと出ると、僕は冷たく細かい雨の中を、店の方角に歩き出した。街はあまりにも久しく、途中で一回道を間違えた。


いよいよ店が見えてくる。しかし、暖簾が収まるはずの場所には空白が。店の扉になにやら紙が貼ってあり、嫌な予感がする。幸い、店はまだ閉じられた訳ではなかった。ただ、真新しい張り紙によれば、もうランチの営業はしていないのだった。

まずい、これはまったく想定していなかった。腹が減っていて、雨が降っていて、トンカツを食べるはずが路頭に迷っている。こういう時、間違いなく僕の今日の昼飯は「外し」になる。避けようが無い。それは僕の経験からも、あらゆる食べ歩きの書物からも、明らかな真理だ。逃れられない、運命だ。


それでも、僕は無駄なあがきをすべく、無理矢理考えついた二番手の店に向かって歩き始める。

一番新しいネクタイを危険にさらすことは承知で、通り沿いの焼肉にしよう。とびきりうまいわけでもないが、リーズナブルで懐かしい。しょぼいワカメスープも、今なら美味しい。しかし、というかやはり、焼き肉屋は、意味不明なセンスの居酒屋に変わっていた。しかも、その居酒屋までもが店仕舞いしてい た。よろしい、これは想定の内だ。更に歩く。ちょっと遠いが、懐かしい中華料理屋で名物の湯麺を食べることにする。残業の途中でよく食べに行った。

床がヌルヌルして、厨房には下ごしらえで切られた野菜が笊に山盛りになっている。活気があって、台湾の下町のような匂いがする、、はずの店は、区画丸ごと、とびきり大きなタワーマンションになっていた。フロントにコンシェルジュ付き。

こうなれば、iPhoneに全てを託すしかない。食べログアプリを起動し、GPS周辺検索でランチトップに来た店に迷わず向うのだ。1位、中華料 理、ランチ平均予算2万円。無理。2位、カレー、ランチ平均予算千円。よし。ここにしよう。昔から店名だけは知っていたが、行ったことが無かった。


「お皿を取って、好きなだけ盛って下さい」

あまりの展開に、僕は業務用ジャーのご飯を大盛にし、巨大な豚タン入りのポークカレー(甘口)をかけていた。ポテトサラダを反射的に載せ、もやしの ナムルでバランスをとった。らっきょうを大量に追加した。なんだここは、カレーバイキングの店なのか?システムが分からない。席について、なにがなんだか 分からないまま、カレーを食べる。どんな状況でも、カレーはうまい。むしろ、カレーがまずいってのは、よほどのことだ。

直ぐに、左隣に二人連れのサラリーマンが座る。店を紹介したと思われる方の男は、太っている。

「ここは何度でもお代わりできるんですよ。xxなんか、いつも 4回はお代わりしますよ。僕はもう、ここ以外でカレーを食べる気がしないです。そうそう、xxなんか若いから沢山食べるんでしょう、いいと思いますよ、ここ」


うんざりだ。そう思った。カレー千円で食べ放題の店。おかずも盛り放題。お代わりし放題。それはつまり、デブまっしぐらではないか。まもなくして、 右隣にも、太った男が座る。太った男に挟まれてカウンターでカレー。まったくもって、うんざりだ。だいたい、俺は別にカレーなんて、食いたくなかったじゃないか。新しいネクタイにカレーって、最悪じゃないか。しかも、食べても食べても減らないのは、実は皿がとんでもなくでかいってことじゃないか。

しかし、もう遅い。空きっ腹をかかえて、冷たい雨の中を歩くよりは、食べ放題カレーでお腹が苦しい方が、いくらかは幸せなのだ、きっと。

左隣の男は、カレーのお代わりを盛りに行った。僕は大急ぎで残りを食べきって、外に出る。雨は止む気配は無く、しかしカレーのお陰で体は温かい。ネクタイも無事だった。満腹すぎるほど満腹だ。まあ、来年ぐらいに、もう一度食べに来てもいいか。

インドではメジャーな料理、ビリヤニ

Photo: Biryani 2009. Tokyo, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

Photo: “Biryani” 2009. Tokyo, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

スパイスと羊脂と化石燃料の混ざった臭い。このあいだ、北京の屋台村で嗅いだのと同じ臭い。そうして、店内ではザワザワと色んな国の人々が、食べ物を口に運んでいる。カトラリーを使う人が多いが、手で食べている人も結構居る。ここはリーズナブルでうまい、喧噪と匂いで入った瞬間にそう分かる。


僕はその週、とにかく、ビリヤニが気になっていた。twitter のつぶやきで、心にひっかかった単語ビリヤニ。

ビリヤニはインド料理で、ごく簡単に言ってしまえばカレーとサフランライスの炊き込みご飯なのだが、仕込みがとてもめんどくさいもので(カレーつくって、サフランライスつくって、それからやっと炊き合わせる)、日本のインド料理店ではあまりメニューに載らないのだ。つぶやき主に訊いてみても、ちゃんとしたビリヤニを出す店は限られてしまっているようだ。

どこかで食べてみたいものだ、と思いつつ、友人と晩ご飯へ。待ち合わせ場所がアウェイな所なので、お店は任せた。お勧めがあると、連れて行かれたの は、ヨガの先生に教わったというインド料理店。店内は巷に蔓延る「下品なチェーン系適当インドかパキスタンよく分からない料理屋」とは違う、ブルーの趣味 の良い内装。だが、えらく混み合っていて、匂いと喧噪は強烈だ。ひっきりなしに、客が出入りしている。ふと壁のお勧めメニューの張り紙を見ると、、 「Biryani」えーと、「びりやに?」

あるじゃん。


ここによく来る、という友人はビリヤニを頼んだことはなく、まあ、確かに知らなきゃ頼まないだろう。僕だって、ここ数日で知ったのだ。それに、この店のメニューには、別に詳細な説明が書いてあるわけではないのだから、馴染みが無い日本人にはなんの料理だか想像も付かない。

マサラドーサ、チーズクルチャなどを食べつつ(これらも初めて食べた)、ビールなどを飲んでいると、待望のビリヤニがやってきた。ビリヤニは、ちゃんとバナナの葉っぱの上に乗ってくる。この店のレギュラーメニューはマトンのビリヤニだった。ヨーグルトベースのドレッシングがかかったサラダ(友人はデザートだと言ったが、残念ながらサラダだ)が付いてくる。

ビリヤニの第一印象は、いささかしょぼい意見だが「混ぜなくて良いので、食べやすい」ってこと。カレーとご飯のバランスを気にしないで、良い感じの 味の濃度でモリモリ食える。そして、食べていて、なんとも懐かしい気分になる。ここのビリヤニは、オリジナルがそうであるように正しく超長粒米で作られていて、ご飯の食感は炒飯と混ぜご飯の真ん中のような感じ。スパイスは利いているが、日本人にとっても、安心する味だ。


よく見たら、左隣のテーブルのインド系なメンズ 3名は、全員ビリヤニ単品のみ。右隣も締めはビリヤニ。なんだろう、お袋の味、五目おこわでも食べる感じか。ビリヤニは婚礼などのお祝い料理で作る、とインド料理のサイトには書いてあった。だから、気取った感じの味だと思っていたが、なんか違うかもしれない。むしろ、糞暑いインドで、独身のメンズが日本に於けるラーメン屋の炒飯のようにモリモリ食うのが、イメージに合うような気さえする。

食べたいなぁと、思っていたら、思わずビリヤニに出会えた。そういう日。

たまごカレー

最近好きなもの。「たまごカレー」

カレーの中に、固ゆで卵の丸揚げが2つ入ってる。カレー自体は相当辛いのだが、ナイフで卵を切り崩し、混ぜながら食べるとマイルドな感じになる。卵は、芳ばしく揚がった白身がポイントだ。この料理、味も良いのだが、それ以上に褐色のカレースープの上に、ポコンと浮かぶ卵が面白くてつい頼んでしまう。

名前も良い。だって、「たまごカレー」


その日、なんやかんやで結局会社に泊まることになった僕たちは、腹をすかせて目を覚ました。朝飯を求めて街に出る。結局、土曜の朝9時30分にやっている飯屋は、うどん屋とインド料理屋ぐらいだった。インド料理屋は 24時間営業。

「朝から、、」
「まじで、、」

僕は例によって「たまごカレー」を注文し、同僚は「マトンカレー」を頼んだ。あたりまえの事だけれど、インド人のウェイターに「たまごカレー」言うと、ちゃんと通じる。なんか面白い。「羊カレー」も通じるだろうか?


スパイス山盛りの、本格「たまごカレー」は今日も美味しかった。同僚の「マトンカレー」もいつも通り辛かった。辛いモノ好きの同僚も、この店のスパイスには満足したようだった。

朝っぱらのカレーを終えて、我々は店を出た。数時間前、僕たちは夜食に 200g のステーキを、おろしニンニクとハラペーニョのソースで食べた。そして、今度はカレーを腹一杯。

「なんか、腹、熱くない、、?」

僕たちは腹をこわした。