
可能性を信じられない日は、寝てしまうのが良い。
38度線付近、都羅山駅。
開城工業団地に通じる線路、向こう側にはGoogle Mapsが何も表示しない空間が広がる。南北朝鮮の関係悪化に伴って、団地は操業を停止している。だから、この線路に列車が走ることは無い。
バスを降りたときから、北朝鮮の宣伝放送が聞こえてきていた。この線路が続く先から、聞こえてくる。もっとよく録ってやろうと LINEのレコーディングをONにして、ホームの先に歩いて行った。
南から北に亡命しようとする人は居ない。だから、南側には別にフェンスのようなものは無い。極論すれば、走り抜けてしまえば、あっち側に行けてしまう。行かないが。
歩みを進めると、放送はいよいよ鮮明に聞こえてきた。
「ノーノー」
ホームに出たとき、周りには同行の観光客が何人も居たはずなのだが、振り向くと僕しか居ない。いや、韓国軍の兵士が居た。きっぱりと声をかけられて、兵士に連れ戻された。
生ロシア軍って、多分初めて見た。そして、一旦見てしまうと、ウラジオストク中に軍があるので、見慣れる。
軍港としてのウラジオストクには、ロシア太平洋艦隊の総司令部があり、両舷に並んだ対艦ミサイルの発射管が印象的な、旗艦ヴァリャークが停泊している。空母を守るイージス艦がいかに凄かろうが、それ以上に沢山ミサイル撃てばいいでしょ的、おそロシア式ドクトリン。
米第七艦隊と相対するためのロシア太平洋艦隊も、ソ連邦の崩壊に伴って大幅に艦艇数を減らしているという。そもそも、外国人がウラジオストクに立ち入ることができるようになった事自体が、歴史の移り変わりを感じさせた。
軍港は民間の港に隣接していて、基地の直ぐ横を歩いてウラジオストク駅の方に抜けることができる。ゲートを過ぎると、フェンスの向こうにはちょっとした官舎が建ち並んでいる。右手をギブスでグルグルにした、おそロシアな兵隊が、上半身裸でこちらを見るともなく立っている。側らには、黒い小さな犬がちょこんと座っていた。犬も飼えるのか、ロシア軍。