blogのレイアウト崩れをチェックがてら、昔の投稿を読み返している。
「定食屋」というエントリーで僕はあるタクシーに乗っている。一匹狼のタクシー運転手。電子制御された車が嫌いで、カクカクボディーの日産車セドリック・タクシー専用モデル(最終型)に乗っていた。深夜、社内は古色蒼然として、アナログメーターの向こう側に真っ暗の皇居のお堀を見ながら乗っていた。
会社に泊まって、そのまま週末また働いて、晩飯がてら居酒屋に流れた。同僚と二人で、深夜のオフィス街でタクシーが来るのを待っていた。週末のその場所は、タクシーなんて殆ど通らない。暫く待って、最初に通りがかったタクシーを同僚は譲ってくれた。あるいは、それが逆だったら、その運転手との縁は無かったかもしれない。
「一期一会を大事にしたいので、常連客はとらない」という変わった個人タクシーの、僕は3人目の常連になった。それから数年間、深夜にも明け方にも、気持ちよい春の夜も、凍える冬の朝も、何度も迎えに来てもらった。
東京に大雪が降り、法人タクシーが全部逃げてしまった夜も、「必ず行くから待っていて下さい」と言ってくれた。よく来れましたね、と聞くと「冬は常にスタッドレスですから」と答えた。一日積もるか積もらないか、そんな東京の冬で、常にスタッドレスで備えるのは、流石の元陸自。
それから13年、都心に引っ越した僕が、客として彼のタクシーを使うことは、もう殆ど無い。殆どないけれど、その代わり友達になった。彼が今仕事で乗っている車はハイブリッドなトヨタ Saiになっていて、あの拘りは一体どこに行ったんだと思うが、時間は人を頑固にも柔軟にもするのだろう。
去年一年は彼にとってはいろいろ良かった事も、悪かったこともあったようだ。10年以上も付き合いがあると、お互いの人生みたいなものが、積み重なってしまう。僕と干支が同じ運転手は、去年ちょっとした大病をした。それが、快癒した知らせを LINEで受け取って、とても嬉しく思った。
彼は未だタクシーに乗っていて、定食屋は開いていない。