定食屋

Photo: 副都心のあたり 2004. Tokyo, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

Photo: "副都心のあたり" 2004. Tokyo, Contax Tvs Digital, Carl Zeiss Vario Sonnar T* F2.8-4.8/35mm-105.

久しぶりに乗った、ある個人タクシーの運転手と、ずっと話をする。都心の個人タクシーの運転手には珍しく、彼はグループに入らない、一匹狼だ。

「つるんでお客さんをまわしあうのは、嫌いなんです」

ちょっと変わってる。


決まったお客も取らないんだという。いつも、街を流している。

「いままで、ずっと乗って頂いたお客さんは 3人しかいないんです」

どうやら、僕は、その 3人目らしい。(でも、めったに乗らないけど)彼が乗せた数少ない「決まった人々」は、皆、出世したそうだ。残念ながら、いつも出世なんかしたくない、と言っている僕が乗ってしまうのはどうかな。

「あんまり偉くなってしまうと、運転手が付いちゃうんで、乗って頂けないんですけどね」

元々は自衛官をしていたらしい。年齢と、個人タクシーになるための資格制限を考えると、最短で個人になったぐらいだと思う。物腰は柔らかく、口ひげと洒落た眼鏡で、タクシーに乗っていなければ何かのショップのオーナーみたいに見える。


乗っている限られた時間、お互いが考えているいろんなことを話す。年齢も、職業も、バックグラウンドも、なにもかもが違う、その時間だけの関係。
「日本は、どんどん悪い方向に行っているような気がするんです」
「そうですね、そう思います」

どちらが言い出した訳でもないが、なんとなく息の詰まるような、嫌な世相。景気が悪い、とかそういうんではなくて、もっと不自由で、不幸な時代の予感。そんな空気への認識を、ふと共感したりもする。


そういえば、出会ってしばらくたった頃、

「学生相手のね、定食屋をやりたいんですよ」

なんてことを言っていた。人にご飯を作って食べさせるのは、確かに、幸せそうな仕事だと思う。(大変だろうけど)盛りのいい、学生向けの定食屋。良さそうだ。それなら僕にも考えがある。

「僕はパン屋がいいなぁ」

と言うと、妙に喜んだ。

「やっぱり、xx さんはちょっと変わってますよ」

あんたに言われたかぁないが。

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