リアルすぎるお坊さんフィギュア

Realistic monk figure

Photo: “Realistic monk figure” 2012. Bangkok, Tahi, Apple iPhone 4S.

僧侶が並んでいる。

露店の台の上に、それぞれに微妙にポーズも顔つきも違う、精巧な僧侶フィギュアが並べられている。一見してガラクタのラジカセや、ニセモノの骨董品が並ぶ露店街に、突然、桁違いにハイグレードな品々が。

ディアドロップの真っ黒な大門サングラスをかけた兄ちゃんが、店番をしている。

通常、僕は旅先でお土産の類をできるだけ買わないが、これはなんとなく買って帰らなくてはいけない気がしてしまっていた。でも、待て。どこに飾るんだ。もっと言えば、こんなにあげづらい、捨てづらい土産は無いのではないか。


タイに於ける、お坊さんのアイドルっぷりに、僕はかなり驚いていた。

朝、テレビをつけると高僧の説教をひたすら流す、「お坊さんチャンネル」に行き当たる。それも 2チャンネルある。きっと、自分の宗派とか、好みの路線というものがあるのだろう。

タクシーのバックミラーには、お坊さんブロマイドがかかっている。運転手に「それは、敬愛する僧なのか?」と訊くと、そうだと言う。バスの側面には、僧侶の写真が極彩色でプリントされている。


「ワット・ポーは今日は休みだよ!こっちに付いてきなさい」

という、あまりにもあからさまな客引きのオッサンを振り切って、王宮から数ブロック離れたワットポーに向かって歩く。タイにも客引きは確かに居る。でも、しつこくないというか、諦めが良いというか、「いらない」「乗らない」「興味ない」というと、たいてい意外とあっさり「あ、っそ」という感じで引き下がる。中華圏では考えられない引き際の良さだ。

空港からホテルまで来て、降り際にあと TBH1,000よこせ、という運転手に「なんだその料金は、聞いてないぞ」と、いささかの長期戦を覚悟で挑んでみたが、「ちぇっ、いいよいいよ」という感じですぐに引き下がってしまう。

受けて立つ気満々で言ってみたこちらは、拍子抜けしてしまう。根っこの所で、抑えが効いているというか、殆ど例外なくタクシーに飾り付けられている僧侶アイテムは伊達では無いのだ。


引き続き、ワット・ポーに向かって歩いている。露店が何百メートルにもわたって、続いている。遺跡からの出土品、と言いたいのだろう、小さい仏像を刻んだ石とも、汚れたテラコッタともつかないものをやたらに沢山並べている。とても手を出す気にはならないが、これを買っていく人も、やっぱり居るのだろうか?


そして、突然目に飛び込んできたのだ。

あまりにも、リアルな僧侶フィギュアが。目を疑う程の作り込みと、質感十分な仕上げ。これが人形である事を伝えたいために、わざわざ露店のオヤジを入れて撮影してしまった。

ちょっと買おうかな、と思った。値段が、実はそんなに高くない。でも、やめた。後日不要になった時に、どうやって処分すれば良いのか、やっぱり分からなかったからだ。

ウェルカム

Web サイトに飛んで、いきなり画面を覆い尽くす広告が出てくるサイトが有る。

メディアな人たちと打ち合わせていて、あの腹立たしい全面バナーを、ウェルカムバナーと言うのだと初めて知った。

やられている方は、ウェルカムだとはさっぱり思っていないだろう。あれに出稿するのは、自滅行為だと思うのだが、誘導率が上がるのであれば、なりふりはかまっていられないという事だろうか。

インド ビザ申請

インド ビザ申請。茗荷谷。インド旅行にはビザがいる。ビザがいる国って、行ったことが無い。

書類を書いて、ひたすら順番を待つ。ヒマラヤ登山みたいなザックを背負った女子は、何かに本気なんだろう。しかし、いまからザックを担ぐ必要があるだろうか?


思えば、旅の、あるいは日常の、いろんな事を忘れないように文章に書いて来たが、それでも、全体からすれば、いろんな事を結局は忘れてしまったのだ。そんな思いが過ぎる。

戸惑いながら学生旅行のビザ申請をする、旅行代理店の若い女。日本語が通じるはずの窓口で、ひたすら英語で押し通す日本人とおぼしき女。ビザ申請の窓口は、既にカオスだ。


僕よりずいぶん後にやって来たヒマラヤ女は、何故か先に呼ばれてかえっていった。順番とか、そういうのはあんまり、無いのか。既に、インド旅行は始まっている。