15年後にアメリカでまずいランチボックスを開ける

lunch box

Photo: "lunch box" 2011. US, Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.

人の流れについて行くと、地下の広いスペースが食堂とランチボックスの配給場所になっていた。

そのスペースは、見た事が無いくらい広い。もちろん、日本でも幕張の展示場などは広いが、普通の天井高で部屋がひたすら奥に続いている光景は日本ではちょと見ない。あえていえば、もの凄く明るい地下駐車場?そんな雰囲気。まるでテレビで見た、アメリカの航空母艦か州刑務所の食堂のようだ。


ホットミールというのも選べたが、時間が無いので、ランチボックスにする。普通のと、ベジと、イタリアン、みたいな選択肢になっている。イタリアンが大量にあまっており、嫌な予感はしたが、あえて取ってみた。

もう、15年前のように、ランチボックスの中身に面食らったりはしない。危険そうなショートパスタの容器は開けもしないし、岩のようなパニーニはちょっとづつ囓る。ポテチみたいなスナックの袋が丸ごとはいっていても、それは、そんなもんかと思えるようになった。そうだ、初めての海外出張でアメリカに行ってから、もう15年が経ったのだ。


その時と、感じる事は変わっただろうか。ITという世界に無限の未来があった15年前とは、やっぱり気分は違う。おっかない外人にしか見えなかった人々は、その中にも良い人と悪い人が居るんだな、ということぐらいは分かるようになった。空港やホテルに漂う、何とも言えない外国の臭いが怖くはなくなった。

そうして、ちょっと落ち着いて、外の国を見ている気がする。

羊ベェェ。

sheep

Photo: "Sheep" 2011. Yamanashi, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

ちょっと行ったところに、羊が居るらしい。そんな話を訊いて、旅先の宿から出かけてみる。

初夏の太陽がカッと照りつけ、高原のカラカラした空気の中でも、汗が出てくる。

時折日陰で休みながら、牧場へとてくてく歩く。


何かの理想をもってつくられた、瀟洒なペンションが建ち並び、かと思うと何かの理想が妥協になってしまった、ペンションだか民宿だかわからない建物がまじる。ああ、ニッポンの観光地、といった光景。

やがて県道沿いに、牧場が見えてきた。人気の無い、埃っぽい牧場。建物の影から、草刈り機の音がするが、人影は見えない。

かまわず中に入っていくと、囲いの中に、いきなり羊が居た。樹脂で出来た、いたって実用的な小屋の脇の、せまっくるしい柵の間に、午後の日を浴びながら我慢強く立っている。


ふれあい広場、の看板はあるが、係の人は居ない。柵の外から勝手に触れあう分には、無料であろうと解釈する。山羊が三匹ばかりと、羊が一匹の、ふれあい広場。

それにしても、えらく暑い。なにをするでもなく、羊が立っている。のぞき込むと、羊も僕をのぞき込んでくる。そして、ベェェェ、と驚くべき音量で鳴く。

ベェェェ、ベェェェ。

鼻の頭が、繊細にシワシワになっている。毛は短く刈られて、くしゃくしゃになって湿っている。暫く眺めて、ふむ、と思って背を向けると、わざわざ身を翻して、ベェェと僕を呼ぶ。


やや傾いてきた太陽の下で、ベェェと向かい合いながら眺めている。目が、白ブドウのように澄んでいた。

デジカメで蛍に挑む

"firefly"

Photo: “firefly” 2011. Tokyo, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

郊外の川に、蛍が放たれているらしい。そういえば、本物の蛍を、多分見たことがない。フィルム時代に蛍を撮ろうなんて思わなかったが、デジタルなら一枚ぐらいはいけるかも!?


来てみれば、やはり蛍というよりも、人を見に来たよう。それでも、「目」を澄ませば、数条の灯りを見つけられる。デジカメもそれなりに人間の網膜に近づいたか。


川面に、光が飛んでいく。そこまでは、撮れないようだ。