建ち並ぶ民家の隙間から、ふと灯台が見えた。
狭い狭い路地を抜けて、近づいてみると、灯台はまっすぐに空にのびていて、とても綺麗な形をしていた。岬は恐ろしく静かで、ただ強い西日が僕の腕を焼いていた。
灯台の近くには、いくつも民家があった。木造平屋の、古めかしい建物。僕が、小学生の時に住んでいたような家。一瞬だけ、そこでの生活ってどんな感じなんだろうと思った。灯台の傍、朝も、昼も、夜も、それを見る暮らし。潮風が、サッシを叩く。夕日を受けて、小さく建っている家々は、少し侘びしげに見えた。
五島列島に来たことに、深い意味はない。ただ、あまり聞いたことがなくて、南の方にある土地にいってみたかった。
何があるのか、よく分からなかったのだが、海と太陽はちゃんとあった。「季節もいいから、海の色は綺麗だよ」とタクシーの運転手は言っていた。ほかには、あんまり、なにも無かった。それはそれで、悪くない。
海辺には、誰もいなくて、太陽と灯台だけがあった。あと、フナムシもいるなぁ。