東京某所、行きつけの焼き肉屋で、モクモクと牛を焼いている時だった。いよいよ、「国産黒毛和牛ロース with 新鮮青唐辛子」(本日の目玉)を網に載せようとしたとき、友達の携帯が鳴った。
暫くして電話を切った友達は、確信に満ちた表情を浮かべて、こうきり出した。
「鈴鹿、F1、最終コーナースタンド、3日間指定。どうよ。」
「行く。」
もちろん鈴鹿は、とんでもなく遠い。その鈴鹿まで、まいどおなじみポルシェ928(通称:レゲエ号)で完走できるのか。それは、オーナーである、友 達にも分からなかった。少し補足しておくと、レゲエ号は、「そろそろ全身にヤキがまわってきて、常にどこかしら壊れているが、走る・止まるは極めてしっか りしていて流石はドイツ車」という典型的なポルシェである。今年で10歳、バブル絶頂期に輸入された時の車両価格が1,400万円。最近の得意技は、エア コンと見せかけて熱風を吹き出すこと。(ドイツ車にエアコンを期待する方が間違っている)さて、F1 はいいけど、ホントに行けるのか?鈴鹿って、名古屋の向こうだぜ。
1.エンジンルーム一面にオイルを吹き 2.いつも通りエアコンは熱風しか出さず 3.窓が開かなくなり ながらも、レゲエ号は鈴鹿に到着した。家を出て2日。僕たちが鈴鹿サーキットの最終コーナーにたどり着いたのは、決勝レース開始 10分前だった。今にも雨が降り出しそうな、どんよりと曇った空。それでも、重い望遠レンズやら三脚やらを背負っているせいで、僕は汗だくだ。サーキット の周囲には、入場券を買えなかった数千人の人びとが路上駐車しながら、聞こえてくるF1のエンジン音に歓声を上げている。サーキットの中に入ると、あらゆ る茂み草むらを人が埋め尽くして立錐の余地もない。そして、更にスタンド入場ゲートをくぐると、ようやくコースがハッキリと見える。
うまくしたもので、コースがちゃんと見える場所には、スタンド席がつくられていて、そこにはスタンド入場ゲートがある。つまり、入場券を持ってい て、なおかつスタンド指定券を持っていないと(正規の料金で買うと、これは相当な金額だ)、まともには観戦できないのである。レースはショウビジネスであ り、金が動く。持たざるものは観れない。
スタンドを見回した僕の目にまず飛び込んできたのは、視界を埋め尽くすフェラーリ応援団の赤だった。ドイツやイタリアなど、ヨーロッパからの応援団 も居る。右も、左も、跳馬をあしらった赤が支配していた。旗もコートも、帽子も真っ赤。半端ではない。どれぐらい半端ではないかというと、写真のレイン コートが 2万円以上するぐらい半端じゃないのだ。そして今日、ミヒャエル・シューマッハが優勝すれば、マレーシアでの最終戦を待たずして、フェラーリはコンストラ クターズ・チャンピオンに輝く。そう、今日は名門の復活をかけたレースなのだ。