香川雑感 その2

Photo: “Firefly squid tempura.”

Photo: “Firefly squid tempura.” 2018. Kagawa, Japan, Apple iPhone 6S.

琴電にゆられて数駅、待ち合わせの場所に居た友人は、自己流というヨガのせいなのか随分痩せた。

 

この街にたいしたものは無い。そう彼は言ったが、目の前に瀬戸内海が広がるだけあって、一軒目の居酒屋で出た蛸墨の天ぷらなどは初めて目にした。ホタルイカの天ぷらも、多分初めて食べて、感心する。個室は東京より、明らかにスペースに余裕がある。窓の外の、低層の建物を見るとはなしに見ながら、酒を飲む。6月末の夕暮れ、どんよりとした空。


その後に、名物料理「骨付鳥」をこなすために半ば義務的に連れて行かれた鳥料理の店は、讃岐コーチンを揚げてあるのだけれど、友人の言うようにひらすら塩辛い。友人の店に対する評価も、その味付け並みに辛い。しかし、イカ刺しとか、カレイの唐揚げとか、いつも食べるメニューがちゃんとある感じで、僕にとってはそれ程悪い印象では無い。骨付鳥は、毎回は頼まないだろうが。

3軒目。バーのマスターはメキシコから流れてきたような風貌で、受け口な喋り方と方言で、何を話してくれているのかさっぱり分からない。店の内装も、マカロニウエスタンで見た、メキシコの田舎屋を模したような壁。


最後にホテルのバーで飲んだのは、シャンパーニュ。銘柄はなんだかわからないが、この街で一番のホテルの最上階で飲むシャンパンは確かに、大変良かった。高価であることには、高価であるだけの意味がある。何かを区切るような、そういう種類の酒なのだろう。

人の踊りなんか見て、何が楽しいんだ一体

Photo: “Countertop dancing at Coyote Ugly.”

Photo: “Countertop dancing at Coyote Ugly.” 2018. Tokyo, Japan, Apple iPhone 6S.

人の踊りなんか見て、何が楽しいんだ一体。と思っていたが、意外と面白い。

六本木の裏路地の、自分では絶対に行かない、というか行けない店。チャラい、という表現がぴったりのマーケティングのメンズが二次会だか三次会で僕らを連れてきた。一見すると、アメリカンなテイストのスタンディングバーだが、無数の下着が天井から無数にぶら下がっていたり、DJブースが巨大だったり、フロアーの店員が基本女性だったりする。

この店は基本、フーターズみたいな感じの店で(tabelogにも載っている)、ただし、歌と踊りにはずっと気合が入っている。カウンターの上で、ダンサーが踊る。カウンターに土足、というのが、その時点で奇妙に日常をぶっ壊しているというか、生理的に凄い違和感があっていい。


人の踊りなんて見て、何が楽しいのか、とだいたいそんな風に思って居たのだけれど、実際見てみると結構楽しい。写真はどんどん撮ってどんどん上げてね、というスタンスなのも面白い。領収書が落ちる気はしないけれど、いたって堅気な店なのだ。テキーラショットをダンサーに飲ませてもらう、というアトラクションがあって、連れのオッサンが良い感じに壊されていく。

カウンターの上で踊る客を、そういえば見たことが有る。アマンドの裏の方にあったクソなバーで、カウンターの上で踊る白人客の男を見た。ずいぶん昔の話だ。

スナック しがらみ

Japanese Snack in Thailand.

Photo: “Japanese Snack in Thailand.” 2017. Thailand, Apple iPhone 6S.

「しがらみ」それが、店の名前。人生のしがらみは、実にここバンコクにまで、しみ出しているようだ。


ゴミゴミしたソイの奥の方、3階建てのビル。1階が日式の居酒屋「みちづれ」で2階は謎、3階がスナック「しがらみ」。スナックは、別にいい。ソイに溢れる熱気と喧噪にウンザリした我々には、普通の居酒屋で十分じゃないか。いや、普通の居酒屋がいいんじゃないか。

店は意外にも奥に広くて、鮨屋のような長いカウンターまである。座ると、ネタケースに転がる、目が充血しきった鯵のような鯉のような地魚と目が合う、この店で生ものは無理だ。


メニューには、親子丼とか、牛丼とか、ベーコンエッグ丼とか、うな丼とか、居酒屋らしからぬものも並ぶ。注文したら本当に出てくるんだろうか。恐ろしく暇そうな店員が、近くの席に座ってくる。連れの一人が旅行ガイドを手に、カタコトのタイ語を操って女性店員に話しかけるのはまあ、良いとして、店員の視線がだんだん怪しくなってきているのは気のせいか。

ちなみに、3階のスナックを見せてよ、と言うとホールに居た女の子達がゾロゾロと着いてくる。つまり、1階の居酒屋みちづれも、3階のスナックしがらみも、スタッフは全く同じであり、出てくる酒も同じであり、スナックと言いながら日本語は全く通じないし英語も無理でタイ語ができないと会話不能、というすさまじい業態であることが判明した。

※しかし、その価格の安さと静けさから、連日この店に行くことになった。業態に怪しさは無いので、女性も安心。と言うことは、あの店員の怪しい視線はより深刻な意味を持っていたのかもしれない。