緊急事態宣言下の東京。
Amazonが生活必需品のデリバリーインフラになって、創業の品である本が発送されない、というのは実に皮肉な話だ。honto.jpを使えば、まだ本は送ってもらえるようなので、ふとこの時期に気になった「戦下のレシピ」を買おうかちょっと迷った。が、迷っているうちにWebから発送のオプションが無くなった。引き続き在庫を見ることはできるので、それを調べて、本屋に直接買いに行くことはできる。
在庫を持っている書店の一覧を眺めていると、昔の職場の近くの馴染みの本屋に在庫があることが分かった。ちょっと懐かしい気分になったし、やたらに民度の高い地区だから、危険も少ないだろう。だから、歩いて行くことにした。
区を一つ超えて、週末のオフィス街を抜けていく。高層ビル街に、人は殆ど居ない。スケボーをもった若者グループが、楽しそうに走りすぎていく。あの歳で、都心に住んでいて、スケボーができたら、僕もやるかもしれない。
人が通らなそうな路地をひたすら選んで、川沿いを進んで、皇居を迂回し、堀を越え、歩いて行く。かつての職場の近くは、ちらほら人が居たが、やはりやたらと民度が高い。家族揃って近くにお買い物、はちょっと感心しないけれども、子供までちゃんとマスクをしている。その横を通り過ぎる、窓を全開にしてさらにマスクをして、ゆっくり走る一人乗りのメルセデス。
ウイルスが人の振る舞いを制御し、振る舞いが人を淘汰する。凄く綺麗な空の下で、そんな事が進行している。どうも、あの震災と言い、今回の新型コロナウイルスといい、あまりにも大きな出来事の中にある人間は、奇妙な現実感の欠落の中に生きている感覚になるのか。そんな目に、一生に2度遭うとは思わなかったが。
本屋はちょっと人が多かったので、目当ての本をみつけてさっさと帰ってきた。馴染みの店に寄ったりしたかったけれど、そもそも店は開いていないだろう。風が強く人が減った街は、木々や古い建物が、その分息を吹き返しているように見えた。買ってきた本は、サクサク読めた。あまり、心に残る内容は無かった。