どこから来た猫?

a cat in Malacca

Photo: “a cat in Malacca” 2010. Malacca, Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

マラッカの猫は、どこからやってきたのだろう?この半島に、猫が昔から居たとは思えない。

マラッカは古くから海上交易の要衝だ。無数の船がここに投錨し、無数の人たちがここに滞在し、あるいは骨を埋めたことだろう。


今、僕のまえで長く伸びているこの猫も、その祖先は船乗りがねずみ取りのために、遙かヨーロッパから連れてきたのだろうか。あるいは、その古風な体型と顔立ちを見るに、エジプトあたりの猫発祥の地から、乗り込んできたものだろうか。

マラッカの猫の体は皆小さく、ほっそりしている。日本の海の近くの猫は、餌がよいからみな体格がよいが、ここの猫たちはそういうものでもないようだ。

飼われているのか、あるいは、そこに存在しているだけなのか、それもよく分からない。が、モスクの広場で超然と昼寝にいそしんでいる彼の目線は鋭い。


イスラムの猫だなぁ、と勝手に合点し、起こしてしまった事を詫びて立ち去る。彼の祖先は、イスラム教徒と共にダウ船に乗ってきたのかもしれない。

夏の最後のレンゲショウマ

レンゲショウマ

Photo: "レンゲショウマ" 2010. Tokyo, Japan, Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.

だいたい、大きなカメラを持っていると、おばちゃんに記念撮影を頼まれる。あんなものを持っているんだから、写真が撮れるはず。芸術的な部分は別にして、確かにそれは正しい。実に国内外を問わず、記念写真はよく頼まれる。

夏の最後の日のような、その日はとても暑かった。御岳山の山頂、社の奥に立っていると、とても涼しい風が吹き抜け、汗が少し引く。そろそろ先を行こうかという所で、二人組のおばちゃんに呼び止められたのだ。

差し出された携帯で撮ってあげた。だいたいおばちゃん達というのは、「ここで撮って何の記念になるの?」というような、分かりにくい背景を選ぶ。今回で言えば、ただの雑木林にしか見えない背景。だから、経験的に言って、人を少し大きめに撮った方が、評判が良い。


おばちゃん達と別れた刹那、

「あなたたち、レンゲショウマよ、これご覧になった?」

と再び呼ばれる。

御岳山の夏の風物、レンゲショウマの開花時期はとっくに終わっていた。しかも、この夏の暑さだ。しかし、吹き抜ける風が、少し長く花を持たせたのかもしれない。社の片隅に、少し虫に食われながら、二輪のレンゲショウマが咲いていた。僕は多分、その姿を初めて見た。

「こんな所で、待っててくれたのね」


俯き気味に咲く花に、おばちゃん達のお陰で、気がついた。記念撮影にも良いことはある。石段で一休みし、小腹空きスナックみたいなものを分けて食べて、水を飲んでさて今度こそ行こうか。

窓を一枚撮る。美しい。

Photo: a window in Malacca 2010. Malacca, Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

Photo: "a window in Malacca" 2010. Malacca, Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

いきなり連れて行かれた蜂蜜農場と、マレーシアの伝統住居展示場は、ツアーに対する我々の懸念を悪い意味で裏切らなかった。腹に詰め物をした仮面の若者が、ステージでおどけて踊る謎の民族舞踊を見ながら、我々のテンションは最低に近づいて行った。まさか、マラッカの観光というのは、伊豆周辺観光スポット巡りのような物なのではないか、その懸念が頭を過ぎる。

移動するバンの窓から見える町並み。炎天下にうずくまるように建つ、低層のコンクリート打ち放しの民家は、たいぶ沖縄あたりの町並みに似ていた。あるいは、サイパンあたりで見たことがあるような気もする。そんな日常の風景に和みもしたが、がっかりもしていた。お昼少し前の時間、外に人影はない。これが、マラッカ?


それから数分、メルセデス・ベンツのおんぼろバンが、いわゆる世界遺産としての「マラッカ」の街に入ったとき、僕たちは思わず声を上げた。それまでの、炎天の下で寝ぼけたように広がっていた現代的な住宅地が、突然、赤い土壁に白い文字がアクセントのオランダ統治時代の町並みに変わった。

目が、一気に覚める。鮮烈な白や黄色の壁、西欧と中国の要素が混在した建築が、どこまでも続く街路。どこにレンズを向けても、写真になる。「そりゃ、ここに行けば良い写真が撮れるよな」とあきらめにも似た羨望で眺める、そんな景色が突然眼前に広がった。

バンを降りて直ぐに、窓を一枚撮る。美しい。