スタンフォードで怖じ気づく

Photo: “Leland Stanford Junior University.”

Photo: “Leland Stanford Junior University.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

日ごろ、学歴というものを意識することは無い。けれど、身近な東大出の人達を見ると、やっぱり頭一つ飛び抜けてとてもきちんとしている感じがする。なにより、日々努力をする力があるなと思う。才能の有無というのは別にして、共通して感じるのは、丁寧に努力を継続する力が、半端ない。あるいは、それを才能と言うのか。

さて、その東大を遙かに凌駕する、世界の学校ヒエラルキーの最上位層に位置するスタンフォードというのは、一体どんな場所なのか。シリコンバレーのど真ん中にあるその場所を、まったくの物見遊山・観光気分で訪れてみた。そして、雰囲気に飲まれ、完全にびびった。


キャンパスは広く、シリコンバレーの街中から、いつの間にか緑が豊かな景色になってきたな、と思ったらそこはもうスタンフォードの敷地内。駐車場から、どうやらキャンパスの中心部とおぼしき教会に歩いていく。インド人の家族が、小さな娘を連れている。「将来、お前はこの大学を目指すんだよ」きっとそういう話をしている。人生の設計図を、この時点からちゃんと引いている。そういう準備と、努力と、幸運の集大成みたいな、そういう学生達が、思い思いに自転車やスケボーに乗って通りを横切ってく。凄い世界だ。

スパニッシュ・コロニー様式という、黄色い壁の中世の城然とした建物の印象は、なんというかディズニーランドみたい。言い方は悪いけれど、こういう建築に伝統を求めると、リファレンスはどうしてもヨーロッパになるから、漂う雰囲気は似てしまうのか。


キャンパスの中にある森の径。そこを歩くと、それは素晴らしいアイディアが生まれるんじゃないかという気がする。例えば、後にシリコンバレーとこの地が呼ばれることになるような、起業のアイディア。そこまで行かなくても、行き詰まりを感じるプロジェクトの打開策。

結局、2月のカラリとした空気をたっぷり吸って、さっさとビールが飲みたいと思っただけだった。

旅であんまり

Photo: “Winter sunset.”

Photo: “Winter sunset.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

旅であんまり文章を書かなくなったのは、どういう事だろう。経験値が増えて、あんまり新鮮なことがなくなってくる、というのは有るんだろう。初めてアメリカに来たとき、最初の夜はあんまりにもびびって、ホテルのブロックから一歩も出ず、敷地の周りをぐるぐる歩いたぐらいだった。

そして、今は仕事でSan Joseまで来て、さっぱり暖房が効かない部屋に悪態をついている。窓から見える景色は、いかにも急ごしらえで、だだっ広い、郊外のオフィスエリア。彼方に、冷えびえとした北部の山々が見える。悲しい雄叫びのような、長い汽笛がホテルの横を走る線路から聞こえてくる。テレビを付ける気はせず、とりあえず手持ちのバッテリーやら、PCやら、スマホやらをまとめて充電にかけて、淡々とシャワーに行く。一泊$300以上とっておいて、この部屋には湯船も無いのか。もちろんその悪態の裏には、日本円が弱くなっている、というのもある。


シャワーから出ると、部屋は相変わらず凍えるように寒い。建ったばかりの(未だ一部は工事中の)ホテルは、今のシリコンバレーの気分を反映したような、シンプルで、クリーンで、面白みの無い内装だ。日の光が弱くなり、天井のバカ高い素っ気ないデザインの部屋は、いっそう寒々しくなった。憎悪しか感じられない、Honeywellのロゴが付いたエアコンの意味不明なコントローラーをしばしいじって、諦めた。このロゴが付いたエアコンを、僕は快適に調節できた事が無い。湯船も無いし、コントローラーがHoneywellだ。冬のテキサス、意味不明なプールサイドの部屋で散々寒い思いをした事が思い出される。だいたい、楽しい思い出、よりは酷い目に遭ったことを人は良く覚えている。


晩飯は、まずスープを頼もう。多分、僕はこの時そんな気分になったのだろう。その夜の食事で、何故か美味くも無いクラムチャウダーを、注文していた。

20年の念願

20年、IT業界に居ながら、まるでシリコンバレーに縁が無い生活を送ってきた。変な砂漠みたいな所とか、湿ったアジアの島とか。そんなのばっかり。

なかでも、シリコンバレー組の誰もが口にするなぞの単語、101(ワンオーワン)。


「101の渋滞が酷いんだよねー」

「あのホテル便利なんだけど、101の直ぐ横でうるさいんだよね」

などと、訳知り顔で会話するシリコンバレー組と、僕の間には深い溝があった。101、それはそんなに凄い道路なのか、人々が口々に言う、そのハイウェイは、さぞや特別な場所なのだろう。そして僕はついに、101に向かっている。

Photo: “U.S. Route 101.”

Photo: “U.S. Route 101.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

くっそ普通の道路だった。